小説V
□届けてやるよ、最悪を
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正反対だと思っていた同じ年頃の娘。
憂いの表情が美しさを際立てる子鞠。笑うことで愛らしさを増す柾子。
参郎も柾子の変化には気付いていた。陰りのある作り笑いは己を見ているようだった。
誰も幸せに出来ない、愛しい人を誤魔化す其れは、端から見ていると薄ら寒いものだ。
忍び込む際に聞こえてきた名前。彦助と椿乃。
またか、と思った。
産まれた時から嫌というほど立ちはだかってきた壁。
今度は何をしたというのだろう?
「いい加減にしてくれなきゃ、穏健派の俺も暴れるよ?」
誰も聞き取っていない呟きは、怒りを含ませたものだった。
「柾子のことは気に入ってるんだ」
最も大切な子鞠が気に掛けているからだけではないだろう。
真似の出来ない笑顔に、憧れを抱いていたのだと気付く。
「守っても良いよな?」
手に入らないものには、輝き続けていて欲しい。
「……欲しがりな臆病者だ」
少女らを見つめ、自身を嘲笑った。