小説V
□鎖が絡み付く…罪という名の鎖が
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彦助には何人もの愛人がいるという。その愛人に出来た子どもが志郎や子鞠で、お屋敷から隔離されるように建てられていたのがこの長屋だった。
椿乃は子どもが出来にくい体を気にしていた。
家の為、彦助の為になるというなら浮気も黙認していたそうだ。
しかし、七年前に待望の子宝に恵まれた。
それからは愛人の子どもを長屋に軟禁するよう命じた。
黙認はしていたが嫉妬深い性格をしており、子ども達が疎ましかったのだ。
志郎と子鞠は太陽の下に出たことがないのでは?
そう思うほど色白の肌をしている。
柾子は訳あって離れた町からやって来た。この土地に馴染む常識というものは到底理解に苦しむ。
「少しずつ慣れればいいさ。柾子、お茶を入れてくれないか?」
「はい!」
志郎に命じられると、柾子は台所へと走った。
その足音に子鞠は苦笑した。
「元気過ぎる子ね」
「いいじゃないか。この家にはない雰囲気を纏っていて悪くない」
子鞠は着物の懐に煙管を閉まった。
煙管と言っても、実際に使用はしていない。まだその年齢に達していないからだ。優雅に吸っていた産みの母に憧れ、加えることが癖になっているだけだった。
「ねえ、志郎」
少年の肩に頭を預ける。志郎は髪を撫でた。
「なぁに?」
「私達は一生鎖に繋がれたままなのかしら?」
この土地の歩く法律は、子ども達を“罪人”のように扱う。
「一生とはどれほどの長さか分からないけど、椿乃さんが健在の間は自由はないだろうね」
逃げ出すことは叶わない。
子鞠はそっと目を閉じた。
「僕が側にいれば寂しくないでしょう?」
「そうね」
ずっと二人は身を寄せあって生きてきた。それはこれからも変わることはないだろう。
賑やかな足音が戻ってくる。寝息を立て始めた少女を畳の上に寝かせ、志郎は廊下に出た。
「足音は静かなほうが良い」と訂正する為に。
Title by 終末アリス