小説V

□君の言葉こそが、世界の真実。
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柾子は茶を入れると、志郎の部屋へと向かった。
彼には定時に茶を入れるよう命じられていたのだ。

「失礼します」

襖を開ければ、志郎と子鞠の姿があった。
志郎は本を読み、子鞠は窓枠に腰かけて空を仰いでいた。

「子鞠様、ここにいらしたのですね」

「どうかした?」

子鞠ではなく、志郎が訊ねる。

「いえ、治郎様がお探しでしたので」

子鞠の表情が強張る。

「お兄様とは喧嘩中なの。もし聞かれても、居場所を教えないでくれる?」

「喧嘩ですか?」

「相性が最悪なの」

毛嫌いを見せているが、柾子は気付かなかった。よく弟と喧嘩したものだと田舎を思い返していた。

「分かりました。すぐに子鞠様のお茶もお持ちしますね!」

柾子はすぐに台所へと引き返した。羊羮も切らねばと、仕舞ってある茶箪笥に目を向ける。

「あっ」

羊羮を摘まみ食いしている青年の姿があった。
名は参郎。治郎の弟、志郎達の兄にあたる。

髪と瞳は色素が薄く、その目が見開かれている。悪戯が見つかったという表情だ。

「また摘まみ食いですか!」

参郎に見付からぬよう隠したのに、意味が無かった。

「ごめんごめん」

ヘラヘラと笑って誤魔化すのが、彼の悪い癖である。
親しみやすい性格から、柾子は悪いと思いつつも気軽に話してしまう。

「参郎様が摘まみ食いばかりするから、いくら茶菓子を用意しても足りないんですからね!」

残っている長さを確認する。

「良かった。子鞠様の分は残ってる……」

「ん?子鞠に持って行くのか?」

「はい」

盆の上に湯飲みと羊羮を並べる。

「それならば、俺が持って行こう」

ひょいっと盆を取り上げられる。取り返そうと柾子は背伸びをするが、高く掲げられては届かない。二人には大きな身長差があった。

「参郎様にそんなことをさせては私が怒られるんです!」

「気にするな」

「気にします!」

「だったら、二人で届けよう」

参郎は顔を皺くちゃにさせて微笑んだ。
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