小説V

□愛の為には死ねないがお前の為なら死ねる。
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「こんな場所に鼠が迷い込んだか」

玩具を与えられた子どものように、治郎は人影に飛びかかった。窓を割って外に出るとは派手にやりすぎだと子鞠はため息を吐く。

散らばった硝子と血痕に、面倒だと思う。

外から聞こえてくる拳の音と笑い声。掌で耳を塞ぐ。

狂気、という言葉が頭に浮かぶ。この土地に住む者は皆、狂っている。閉じ込められている自分達は尚更おかしい。

「……」

声にならぬが、母の名を呟いた。憧れと憎悪が混じり合う。

どうして私を産んだのか。
どうして私を置いていったのか。

どうして嫌いになりきれないのか。


「子鞠」
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