小説V

□正義のミカタ?違う、悪の救世主≠セ。
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「あの方は壱郎様と親しいのですか?ご親戚とだけ聞いたんですけど……」

詮索はよくないことだが、参郎は柾子なら聞いてくるだろうと分かっていた。
少しくらいなら教えてやろうと考えた。

「あいつは椿乃さんの甥なんだ。昔は屋敷に住んでいて、壱郎兄さんとも付き合いがあったようだ」

当時を思い出そうとするが、記憶とは曖昧なものだと思った。

「昔はここまで隔離されていなかったし、今より自由だったんだ」

ここまで進歩してしまったのは椿乃さんの妊娠が大きいだろう。突然の環境の変化に戸惑った覚えがある。
参郎は自分が話せるのはここまでだろうと引き際を決めた。

「壱郎兄さんが教えてくれるかは分からないけど、まだ気になることがあるなら本人に聞いてね」

参郎はもう一切れ口に含むと、笑いながら台所から消えた。


それを見送りながら、呟く。

「……甥ということは分かりました」

柾子の疑問は残されたままだった。
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