腐男子くんの憂鬱−只今加筆修正中−

□腐男子くんの悩み
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<プロローグ2>
宮嶋家の朝は、華子さんの
眩しい笑顔で始まります。

「おはよう、ママの天使ちゃん」

華子さんというのは、正真正銘血の繋がった僕の母親なんですが、何というか夢の世界で生きてるようなところがあり、少々浮世離れした存在だったりします。

今も年頃の息子に向かって『天使ちゃん』なんて恐ろしい単語を使っています…。

「……おはよう、華子さん。」
「もう!華ちゃんって呼んでって、いつも言ってるでしょ?」

まるで十代のような愛らしい少女顔で、薔薇色のほっぺを膨らませた華子さんは、今日も長い髪の毛を、綺麗にくるりと巻いてあります。

さながら、少女漫画に出てくるキラキラおめめのお姫様みたいです。

華子さんを見てると、たまに、将来、年を取らなかったらどうしよう、なんて思ってしまいます。

華子さん、実はどこぞの国の皇族の血を引いている、とかなんとかで、皇族ばりの生活しかしてこなかったせいか、家事全般がまったく出来ません。

華子さんに唯一作ってもらった料理と言えば
、幼稚園の遠足で作ってもらったお弁当。

かわいい熊のマスコットがついているお弁当を、ワクワクしながら開けると、ベーコンの塊と生卵がそのまま入っていたという幼稚園生には、衝撃的な経験をしました。

華子さんが言うにはお弁当箱に入れれば、勝手にベーコンエッグが出来ると思っていたそうです。

当たり前ですが、その日以来、僕はお弁当を華子さんに頼む事は一度もありませんでした。

それぐらいあの日のお弁当は、衝撃的でした。

その代わり、我が家の家事は、父親の宮嶋飛翔がやります。

「おはよう、かけちゃん。今ごはん出来るよ。」

タイミングよく、キッチンからスーツにエプロンをつけた父親が、フライパン片手にリビングに入ってきました。

すっかり主婦業が板についてるようです。

「おはよう、父さん。」

父さんは、一応どこかのお金持ちの跡継ぎだったらしいのですが、華子さんと出会って駆け落ち結婚をしました。
なので、父親の親戚と我が家は絶縁状態です。

代わりに、華子さんの家とは、めちゃめちゃ交流があるのですが、華族の血を引くというお祖母様は、マジで気位が高くて教育の鬼なので、僕達兄弟は苦手だったりします。

そんな両親二人の出会いは、高校時代。

華子さんのファンクラブの会長を父さんがしてたのがきっかけで、というか、ほぼ追っかけで結婚までこぎ着けた、根っからの華子さん大好き人間です。

母さんの事を名前で呼ぶように強制したのも
、この父親でした。
理由は、華子さんが子供達には友達のように親しまれたいと言って、ママと言われるのを嫌がったからだそうです。

でも、本当は母親業が忙しい華子さんを子供達に取られたくなかったからではないかと思ってます。

そんな我が宮嶋家の大黒柱は、見た目は、さすがに華子さんのようにとまではいきませんが、年の割りに若く、綺麗な顔立ちをしています。
それにかなりの女顔で、スーツ姿を見ると、男装した麗人って感じに見えます。
今は、髪の毛が短いので、そうでもないですが髪の毛を伸ばすと、完全に性別不明です。

体毛も薄く肌も白い、線も細く華奢なのに、僕達兄弟が華子さんを困らせると、見た目を裏切る容赦ない態度で、躾けという名の制裁を下します。

それはもう、トラウマになるような、恐ろしい目にあいます。

叱られるっていう次元じゃなく、落とし前をつけるという感じです。

この表現で分かってもらえたら幸いです。

子供ながらに、この人に絶対に逆らっちゃいけない、と強く思いました。

普段は優しい構いたがりな父親なんですが、華子さんが絡む時だけ豹変します。

人は見た目では分からない……父親を見てるとつくづく思います。


華子さんの大好きなピーターラビットの食器セットに、マイセンのティーカップをセットしてようやく宮嶋家の朝食が始まります。

今日のメニューは、
マフィンに、フルーツサラダ。
ホットティー。
コンソメスープ。
生ハムのカナッペ。
プレーンオムレツ。

横をちらりと見ると、あはは、うふふな世界を繰り広げている両親。

自分にも、その遺伝子が受け継がれてるのかと思うと、不安でたまらなくなります。

こんな両親に育てられた僕たち兄弟は、大抵
、5歳くらいで現実を知ります。

そう、幼稚園で出来たお友達の両親を見て、あれ、なんかおかしいな、僕の家?って気づき始めるのです。

それまでは、この華子ワールドの洗礼を受け生活をしていたので、妖精さんはきっといる
、とか、動物さんが人間の言葉を話さないのは魔女に呪いをかけられたからだ、とか本気で思っていました……。

おまけに僕は、五歳まで父親が母親で、母親がお姉さんだと思っていました。

今、思い出しても恥ずかしいです。

母の日に書いた絵が、父さんの顔で、幼稚園の先生が、困惑気味に「それは、翔くんのお父さんだよ。」と教えてくれて、僕は真実を知ったのでした。

当時の父さんは、スーツなんて着ていなかったし、髪の毛も後ろで軽く結べるくらい長かったので、全然違和感がなかったのもあったと思います。

当時、それにショックを受けた父さんが、髪の毛をばっさり切って、それ以来髪の毛を、伸ばす事がなくなったのは、ちょっと責任を感じます。

でも、僕は、これでもマシな方で、宮嶋家の長男。

僕の五つ上の兄は、もっとすごい華子ワールドの洗礼を受けていました。

赤ちゃんの頃から、小学校一年生まで、兄は女の子の格好を、ずっとしていました。

兄自身も女の子だと思っていたようで、小学校入学時に、周りに言われて気が付いたそうです。

この事について、当然のごとく兄は未だにトラウマで、父さん似の女顔に触れると容赦なく、誰であろうと殴ります。

もちろん、僕の時も、女の格好をさせられそうになったのですが、兄が激しく抵抗してくれたおかげで、女装はしなくて済みました。

でもかわりに、毎日着ぐるみ、みたいな格好をさせられていました。

某ハチミツ好きの熊とか、ピンクのリボンが似合う猫さんとか、もう本当にやりたい放題でした。

僕達、兄弟の間では、昔のアルバムは、抹消したい過去の一つです。

実際は、華子さんの持ち物なので、始末する事は叶いませんが、チャンスがあれば燃えてしまえばいいのに、と本気で思っています。

そんな両親達ですが、少し個性が激しいけど
高校入学に関しては、問題になるほどではありません。

どちらかというと快く見送ってくれると思います。

つまり問題は…さきほど出てきた兄なんです
……。
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