愛の夢

□愛の夢−第2番−
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そして、もう一つ。
この男の秘密を、俺は握っていた。

こいつは父親の愛人だった。

三十半ばのまだ年若い運転手と実の父親がキスをしてるのを偶然、見てしまった事がある。
男同士と言う事には、特に嫌悪は無かったが、父親のこの秘密になんとも言えない憤りを感じていた。

家族としての絆が薄れてしまった気がしてならなかった。

裏切られてる母親の顔が、ちらりと浮かぶ。
俺は、その時、雅彦の存在に、ほっとした。
雅彦は、俺を裏切らない。
絶対に裏切らない。
父親とは違う。

でも、実際はどうだ?
雅彦は、俺から離れてしまった。
こんなに想っても、雅彦は気付きもしない。

だから、お前が悪いんだよ、雅彦。
俺から離れて行くから。
絶対に雅彦から俺のところへ戻ってくるようにしてやる。

俺たちは、いつまでも一緒に居なきゃいけないんだから……。

俺の部屋に大江と一緒に充を運ぶ。
彼が良くなるまで付いて居ると言うと、大江は笑って頷く。

大江が帰ると今度は違う相手に電話をする。
その相手に車で迎えに来てもらい、今度は違うマンションに充を移す。

かなり移動しても起きない充に、相当薬が効きやすい体だと知る。
念のためにと縛っていた両手は、意味がなさそうだ。

充をベッドに寝かせると、車を出した相手が文句を言い始める。

「なぁー彰彦。こいつベッドなんて贅沢じゃねーか?いいじゃん、トイレで。」
「馬鹿、トイレが使えなくなるだろ。」
「じゃあ物置?」
「物置で何が出来る?あんな狭い場所じゃ何人も入れない。」
「ちぇー」
「それより、準備出来てるのか?」
「ああ、とりあえず三人呼んでる。」
「こいつが、起きないと意味ないか…」
「いいじゃん、別に。写真とか今のうちに撮ろうぜ。」
「そうだな。」
「じゃあ、俺呼んでくるなー」

パタンっと部屋を出た。

俺は眠る充をじっと見つめる。
気持ちよく眠ってる充の半開きの口が目につく。

どうしても重ねてみたい衝動に駆られる。

なんでだ…さっきから意味が分からない。

俺は自分でも不可解な感情に苛まれる。

そして、とうとう一歩を踏み出してしまう。

ゆっくりと充の口に自分の口を重ねると、充の息遣いを感じた。
触れた唇は、ふっくらと柔らかく、なんだか蕩けそうだった。

充の体からは、なぜか甘い匂いがした。

雅彦も、この匂いを嗅いだのだろうか。
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