愛の夢
□愛の夢-第3番-
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それは、雅彦も同じようだった。
「充…は…俺を選んだんだよ……な?」
充ですら見た事がないような弱弱しい声で、雅彦が充に言う。
充は、ただ黙ったままだった。
「充……もういいじゃん。もう俺のところに戻って来てよ。苦しいんだよ…充が居ないと息が出来ない……もう嫌がる事もしない……だから昔の僕らのようになろうよ。」
『僕』
あの夜から封印してきた一人称。
充が世界の全てだった弱弱しい少年の一人称。
でも充が望むなら元の俺に戻たっていい。
あの頃に戻れるなら……。
未来なんていらないんだ。
どんな変化かも分からない、そんな曖昧なモノより、今お前に側に居て欲しいだけ。
それだけなのにな……なんでだろうな、充。
なんでお前は、俺の手を掴んでくれないんだろう。
充は微動だにしなかった。
雅彦に答える事もなく、ただ充の時だけが止まってるようだった。
静かに音も出さず涙を流す充。
縋るように、それでも答えを知ってるのか絶望してる雅彦。
俺は、一人でなんだか笑い出したかった。
この状況が滑稽で、雅彦が選ばれない事に安堵して、そして何より最大の拒絶をされた自分に笑い出したかった。
『彼が目を覚ませば、じきに分かる。その時充が
どっちを選ぶかは彼の問題だ……。』
充は、何も選ばなかった。
ただ静かにそこに居るだけだった。
求めれば、きっと拒まず受け止めるだろう。
でも、それは充の意思ではない。
充は、求めれば目の前のアイツも受け入れるから、そんなのはただ一方通行のむなしい自慰行為だ。
元々一つの素から生まれた俺たちは、完全に個の存在になってしまった。
もう俺たちが交じり合う事は二度とないだろう。
俺は一生、この息苦しさに溺れて、いつか窒息するその日まで、惰性で生きていく……
それが俺の運命だったんだ。
ちっぽけな未来が、俺の前に広がった。