短編
□生きてはならないと呟いた
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それから、無駄に行動力のある彼女は瞬く間に手続きを済ませた。戸籍とか必要そうなものは彼女にかかればどうとでもなったのだろう。
「どうしてお前までついてくるんだ!?」
「連れないこと言うなよ」
インターネットによれば人気が高いという氷柱学園の制服で身を包む俺逹。
まさかまた高校に通うことになるとは思わなかったが、久しぶりに着る制服は堅苦しいが悪くない。愛着が沸きそうだ。
そう、俺達は今日から高校生になる。
目の前に佇む氷柱学園の生徒として生活を送るのだ。
氷柱学園は全寮制、二人で暮らしていた家とは様子ががらりと変わるだろう。
「本当にここに居るんだな?」
念を押すように訪ねてくる彼女。俺は頷く。
「ここの経営者は副業として吸血鬼退治を行っている。在学中という噂の息子は中でも特殊能力に秀でているらしい」
「そうか。やっと死ねるんだな」
俺は返事をしない。
ただの人間をやっていた時は吸血鬼なんて信じていなかった。
隣に立つ美しい少女の血を飲むまで、俺はただの人間でしかなかった。不老不死を手にすることなくこの世を去ったであろう。
吸血鬼の俺は、吸血鬼の彼女に問いたい。
生きることは罪なのか?
俺がいればお前は生きていていいんじゃないか?
自惚れではなく、そう思っている。彼女に必要なのは俺だ。
「生きてはならない」
悲観的な呟きに顔をしかめる。
己の悲しげな表情に彼女は気付いていない。
死にたいという彼女が一番生きたいと思っていることに。
「じゃあ、行こうか」
校門を潜り抜ける。
常に隣にいることを忘れない。
俺の存在意義は彼女であり、彼女もまた俺を必要とするから。
この命が尽きるまで傍らに。
―Episode 1―