短編
□生きてはならないと呟いた
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「どうやったら死ねるだろうか。なるべく苦しくない方法で」
彼女はニンニクを包丁でスライスながら呟いた。今日はペペロンチーノを作る気らしい。
ここのところニンニク料理が続いている。餃子、ガーリックライス、唐揚げ……毎晩続くと身体から臭いが消えなくなりそうだ。
気分は沈むが、食欲をそそる匂いに腹は減る。
フォークを握り待ちわびていると、緑がたっぷりのサラダが出された。
思わず顔をしかめる。俺は野菜が苦手だ。特に緑の野菜は見た目だけで食欲を半減させると思っている。
彼女が美味そうに口に運ぶのを見る度、俺たちは所詮他人であり、解り合えないのだと絶望する。
こちらの様子に気付くことなく、彼女は話し続ける。
「私は生きていてはならないのだ。化け物だからな」
盛り付けられるペペロンチーノを見つめる。相変わらず無駄のない手早い作業だと思う。腹が減ったと言えば直ぐに出来上がるのは有難い。
「化け物だから簡単に死ねないわけだが、お前ならどうする?」
「いただきます」と言ってから口に運べば、幸福に身体が震える。美味い!
「……食べ物を前にすると人の話を聞かない奴だな」
呆れ果てた顔をされるが、話は聞いている。ただ、答えるための口が塞がっているだけだ。
言ってしまえば、そういうのを屁理屈というのだと彼女は怒り出すだろう。