鼓動は生まれる(仮)
□戸塚明希の証言T
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雲一つ見付けられない晴天。春らしい陽気が心地良い。
フェンス越しに街並みが見え、満開の桜が咲いている。緑ヶ丘高校の周辺は桜の木が多く、高見からでも美しい。
「起きていたんですか?」
先輩はフェンスに寄り掛かり、こちらを見ていた。
「待ってた」
誰を?
そんな言葉が頭によぎる。約束なんて一切していない。それでも、先輩は私が来ることを信じて疑わなかったのだろう。胸が熱くなる。
「今日は始業式なので、特別にケーキを作ってきました!甘さも押さえたし、先輩の好きなフルーツもたっぷり入ってますからね!」
ジャーンと効果音を口にし、桜色のリボンでラッピングした箱を開く。
「ロールケーキ?」
「進級のお祝いです!」
ホールケーキは先輩の誕生日までおあずけ。誕生日には特大のフルーツケーキを作ると決めて、今回はロールケーキにした。
ロールケーキなら落矢センパイ逹も手掴みで食べられるし。先輩にはそんな品の無いことをさせられないので、お皿とフォークは用意済み。飲み物だって水筒に入れてきた。
「すごいね、サプライズだ」
嬉しいよ、と先輩は笑う。