鼓動は生まれる(仮)

□戸塚明希の証言T
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今日は待ちに待った新学期。春らしい苺などのフルーツを買い込んで、向かうのは旧校舎の調理室。
緑ヶ丘の穴場と言えるこの場所は今日のミッションに最適だ。

大型のオーブンをうっとりと眺める。家にもこんなオーブンが欲しい。普段は家庭用のオーブンで充分だけど、特別な日はこれくらいの大きさがなくちゃ。

流行りのバラードを口ずさみながら、メレンゲを作る。学校の調理室は何でも揃っているから便利だ。

時々、聞こえてくるバイクの騒音や硝子が壊される音に手を止めるが、この部屋には関係がないことを確かめると作業を再開する。

買い込んだフルーツを均一の厚さに切り分け、生地が焼き上がるのを待つ。

「先輩は始業式に出てるんだろうな……」

セーラー服のポケットから携帯電話を取り出す。体育館では式が行われている時間だ。
緑ヶ丘の始業式などろくに生徒の集まらない形だけのものだ。だけど、先輩はその形だけはちゃんと出席する。

「終わる頃には完成するでしょう」

上手く焼き色のついたスポンジに満足しながら微笑む。

早く会いたいなぁ。



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