鼓動は生まれる(仮)
□戸塚明希の証言U
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顔を見上げて言えば、眉が下がったのが分かった。落矢センパイの顔に苦笑が浮かぶ。
「確かに、そんな理不尽な真似はしないな。嘘も方便ってやつだ」
この人が理性を捨てて本能で動く時を見たことがない。付き合いは短いし、見極めが間違っているかもしれないけれど、先輩と仲が良い落矢センパイはどんな人物か観察してきた。
「夜な夜なっていうのは?」
「それはマジだな。物騒だし、戸塚も気を付けておけよ」
頷いておく。
「助けていただいてありがとうございました」
「……しばらく伊吹と下校したらどうだ?」
「は?」
真面目な顔で何を言うかと思ったら……先輩の名前!?
「放課後はもっと他校生が彷徨(うろ)いてるからな。伊吹には俺から言っとくし」
「は?」
「伊吹に言えって言っても、お前は“先輩に悪いから〜”とか言うんだろう?」
自分の顔が間抜けなものになっていると思う。
「伊吹は自分のテリトリーに置いとく奴を見捨てたりしないぞ?」
「……はい」
それは知ってる。けど、先輩と下校とか……。
「恐ろしい」
そう呟くと、落矢センパイがケラケラと笑った。