鼓動は生まれる(仮)
□戸塚明希の証言U
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教室に入ると、宮藤はこくりこくりと船を漕いで寝ていた。焼きそばパンを銜えたままという姿は異様だ。
このまま寝続けるのかと思えば、体勢を崩して机に頭をぶつけた。ゴンッと鈍い音が響く。
「ひゃいいい!?」
焼きそばパンを銜えているので、何を喋っているのか分からない。教室中の視線を集める男は額を押さえて飛び回る。
おとなしそうな生徒達が笑いを堪えて肩を震わせている。
「ふょひゅふゃひいい!」
「喋るなら食べてからにしてください」
苦し気に食べているので、宮藤の机の上にあった炭酸飲料を渡す。
「……ふがっ…びっくりした…」
ジュースでパンを飲み込んだ宮藤はしばし呆然としていた。状況を整理しているのだろう。
「海賊船に忍び込んで骨付き肉を食べていたら、親玉に殴られて肉押し込まれた」
それはアンタが見ていた夢だ。
「そのまま寝てれば良いのに」
「え?」
「いえ、何でもありませんよ」
宮藤はアホだ。
ただの背景になろうと徹していた生徒が噴き出すのを目にした。