鼓動は生まれる(仮)

□戸塚明希の証言V
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薄着では肌寒さの残る五月。ゴールデン・ウィークが明けると中間試験と球技大会が待っている。

緑ヶ丘の生徒の大半は勉強が出来ない。授業の出席率の悪さから分かるように、習って理解していないものを試験前に詰め込もうとするのは無理がある。
たまに天才と呼ばれる人間もいるけど、そんな人間がそうそういるはずもなく、平均点は実に低い。

進級・卒業に関わってくるものなので、付け焼き刃の努力はしているようなんだけど。多くの生徒に追試が待っている。

それではいけないと立ち上がったのは、担任の周藤先生だった。珍しく空席の少ない教室内をぐるりと見回すと、先生の本音が駄々漏れの毒舌が飛び出した。

「お前らが赤点にならない方法を考えてやった。二十点分はサービスとして小学生レベルの問題にしてやる。お前ら高校生とは思えない残念な頭だからな。サービス問題だけは一問も間違えるなよ。これで赤点を取ったらどうなるか分かってるよな?」

緑ヶ丘では二十点以下が赤点となり、補習と追試が待っている。

「俺のアフターを潰す奴は命がないと思え」

わざとらしい笑顔にドスの聞いた声。教壇近くの席からは泣き声に似た悲鳴が漏れる。

……緑ヶ丘高校のOBは伊達じゃない。



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