君の声
□[1]月のうた
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月の綺麗な夜だった。
ボーカルのカレンの突然の脱退で、活動休止を余儀なくされたトロイメライ――
前へ進みたくても進む事ができなくて、立ち止まってしまった俺達。
何もできずに、ただただ時間だけが過ぎていく日々。
いつまでこんな毎日が続くんだろう
…もう、バンドできねえのかな。
もう二度と、ギター持ってステージに立てねえのかな。
そんな不安ばかりが心を覆って
行き場のない感情ばかりが溢れてきて
どうにもやりきれなくなった俺は、ギターケース片手に部屋を飛び出していた。
宛もなく車を走らせて
最終的に行き着いたのは海
何かに行き詰まった時には、必ず訪れるあの海――
月が浮かんでいるせいか、それとも夜のせいか…
知ってる筈のその風景は、いつもと違った顔を見せていた。
お気に入りの場所に腰掛けて、おもむろにギターを取り出し、思い付くままに弾き始める。
…こうしてる間だけは、色んな事を忘れられる…
ただただ、音に集中するのみ――
どれくらいそうしていただろう。
夢中でギターを弾いていた俺は、ふと1つの違和感に気が付いた。
それは、あまりに自然すぎて
当たり前の様にそこに存在していて
だから気付けなかったんだ。
俺のギターに合わせて聴こえる声…
間違いなく聴こえるその声。
誰かが、俺に合わせて歌ってるのか…?
ふ、と人の気配を感じて顔を上げると…
視線のすぐ先、波打ち際に1人の女の姿が目に映った