novel

□Still in the old days
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(わっ!あの映像って こんなふうになるんだ……)



雅楽の部屋で、食い入るようにテレビ画面に映し出された映像を見つめる私。

出来たての新曲PVが収められた関係者用のサンプルDVDを、今日スタッフさんにもらってきたのだ。



(やっぱり演奏しているときのガクって格好良いな……)



今は一緒に演ってる立場だから、こうやって真正面から雅楽の演奏シーンをまじまじと見ることは そんなにないけど……。

でも、FANとして観ていた頃は、トロイメライのLIVEでも、やっぱりこの姿に釘付けになってたなぁ。

そんなことを思いながら目を離せずにいると、ふいに隣の空気が揺らぎ……

それと同時にソファが沈んだかと思うと、肩をグッと引き寄せられた。



「うわっ……」



トンッと私の頭が隣にある彼の肩にぶつかり、その瞬間、ふわりと大好きな香りが鼻をかすめる。

ふと見上げると、そこにはいつもの勝気な雅楽の瞳があって……

この幸せなひとときが、紛れもない現実なのだと知る。



「何、一生懸命見てんだよ。そんなにおもしれえのか?自分たちの姿見んの」

「そりゃ、どう映ってるのかなって……やっぱり気になるよ。でもね、こうやって見てると、ずっとトロイメライのFANだった頃を思い出して、何だか懐かしい気持ちになるんだよね」

「ふーん……そんなもんか?」



私の言葉に、さほど興味なさげに呟きながらも、雅楽は私の顔を見てニッと笑う。



「つかお前、今でもFANだろ?」



どこか自信たっぷりにそう聞いてきた雅楽に、私は「そうだね」と笑顔を返した。




――トロイメライは、最高のバンドだから……。




「そういえばさ……」

「え?」

「お前……その頃、誰のFANだったんだよ?」



(誰のFANって……)



突然の思いがけない質問に、私は一瞬口ごもる。



「何だよ!言えねえってことは、まさかカイなんて言うんじゃねえだろうな!?」



隣から明らかに不機嫌そうな声が降ってくる。



「そ、そんなことはないけど……」

「じゃあ、誰なんだよ?」



(う……あの頃からガクを見てたなんて、何だか恥ずかしくて言えないし……ここは無難に……)



「えっと……誰のって言うより、トロイメライの音楽が好きだったから……」



そう答えると、私の肩に置かれていた雅楽の手が、急に首に絡みつく。



「ちょ…!苦し…いよ、ガ…ク……」

「ったく……素直じゃねえな。ちゃんと言えっつーの!」



雅楽は、すぐに私の首に絡ませていた手を外すと、そのままちょっと荒っぽく私の唇を奪った。

やわらかなソファの背に身体を押し付けられ、何度も深く重なる彼の唇を受け止める。

それは、素直に言わない私へのちょっとしたお仕置きのようにも感じられた。
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