夜のティータイム

□ボスを倒してハッピーエンド
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ナイトメアとグレイのホームコメディ―ドラマも、そろそろ、治まるころだ。











その、頃合いを見計らうように、アリスはナイトメアの執務室から出て、コーヒーを入れて、厨房から戻ってきた。











長く、この塔にいれば、それぞれの癖も、話に入っていけるタイミングも、見抜けるようになる。











それほど、この塔には馴染んでしまった。











コンコンと、ノックをして、温かい、コ―ヒーカップが乗ったお盆を持って、当たり前のようにナイトメアの執務室に入って行った。











プカリと紫煙が部屋の中を漂っている。











――まぁた、タバコなんか吸って……











ナイトメアは、煙草を吸う男が、恰好良いと思っている。










とんでもなく、体が弱いくせに、体に悪い事ばかりする。











「ナイトメア。
もう、駄々の時間は終わったの ?」











ふぅーっと、ナイトメアは紫煙を吹く。











「何を言ってるんだ ? アリス。
私は駄々なんか、こねてはいないぞ。
私は、この塔の主だ。
何でも、思い通りになるのが、当たり前だと思わないか ?」











ナイトメアは気取ったように、椅子にふんぞり返って、『水煙草』をプカリとふかしていた。











普通の煙草は体に良くないと、『水煙草』が、ここの所、彼のお気に入りだ。











もう、何度も、やめるように、言い聞かせたが、全く、やめる気配がない。











煙草には、「依存する傾向がある」と、いうのは本で読んだ事がある。











やめるには、それなりの努力と根性がいるらしい。











ナイトメアにそれを望むのは、無理だと、分かっているので、よほどの事がない限り、口煩く言う事はやめている。










コトンと、ナイトメアの沢山の書類が連なったわずかな隙間にコーヒーを置く。











「ありがとう、アリス。
丁度、喉がかわいていたんだ」











「そうね ? そう、思って、持ってきたの……。
……グレイは ?」











きょろきょろと、アリスは部屋の中を見まわしたが、グレイの姿は、いつの間にか、この執務室にきょろきょろと、アリスは部屋の中をいつの間にかこの執務室にはなかった。











「さっき、出て行ったよ。

あいつは仕事が早くって、助かる」











――やっぱり、押し切ったのね……











グレイがナイトメアの

仕事の監視もしないで、

この執務室にいないのは、

先程の、

バレンタインの行事が決定したのだ。











グレイは仕事が早い、

ナイトメアの命令(我儘)を早く、

確実にこなしてゆく。












きっと、街に、

その知らせをしに出かけたのだろう。












「グレイの分のコーヒーも、

持ってきたのにな……」











「心配はいらないよ、アリス。

グレイの分は私が飲んでおくよ」











「ナイトメア、

その、煙草もそうだけど、

コーヒーだって、飲みすぎれば体に毒よ」











「構わないさ。

君がせっかく、入れてくれたコーヒーだ。

飲まないで捨てるなんて、

もったいないだろ ?」











「良いわよ、私が飲むわ。

グレイには、帰ってきたら、

又、入れてあげるから……」











グレイはきっと、

今頃、街中をバレンタインの

行事決行の知らせで

奔走している事だろう。











ねぎらい(同情)の気持ちを込めて、

寒い外から帰ってきたときに、

温かい、入れたてのコーヒーを

飲ませてあげたくなる。











「君は優しい良い子だな ?

私にも、その、優しさを

分けてくれないか ?」











「ナイトメア、

私もあなたに優しくしてあげたいのよ。

でも……」










と、

やはり、どうあっても、

この机の上の書類の山が目に入る。











白い巨塔は、いまだに健在だ。











それも、一つではない。

白い書類が、積み重なった巨塔が、

いくつも連なっている。











「もしかして、

ナイトメア……、

グレイは

『自分が帰ってくるまでに、

仕事を終わらせておいてください』って、

言って行かなかった ?」










「あははは」と、ナイトメアは

高笑いをする。












「君も私の心が読めるのかね ?」










「冗談 !

読めるわけないわ……。

いつものパターンじゃないの ?

もしかして、

グレイを追い出して、

仕事をさぼるつもりで、

バレンタインなんて、

決行したんじゃないでしょうね?」











疑いのまなざしをナイトメアに向けてやる

と、とたんに、

ナイトメアの顔色が動揺に満ちた。











「いいや ! アリス!

そんなことはないぞ!

断じて、ない !

私はここの領地の明るい未来を

思ってだな ?」











ムキになって、

ナイトメアはグレイを追い出した事を

否定する。











――あぁ……、やっぱり……













大抵、物事をムキになって、主張する時は

後ろ暗いところがあるからだ。











ナイトメアは心が読めるくせに、

そういったところを、少しも、

隠そうとしない。











――だから、子どもなのよ。











グレイの気持ち良く分かる。











人の心なんて、隠せるのに、

隠そうとしないで、

心を許した人には、

小さな子どものように

素直に、
こんな風に態度を表すところが、

愛おしく思えるのだ。











――なので……、











「いいわよ。

私がグレイの代わりに

しっかりと、ナイトメアの

お仕事のサポートするから……」











小さな子どもには、優しく、

言い聞かせるように仕事をさせる。
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