夜のティータイム

□ボスを倒してハッピーエンド
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それでも、ナイトメアはかたくなだ。












「せっかく、二人っきりになったんだ。
アリス――」











ポンポンと、膝を叩いて、アリスに「膝に来い」と促す。











――又、そんな事をする……。













「どうして ! そう、なるのよ !」














「ん ?
今日はここに来てくれないのかね ?
いつもは、私に仕事をさせるために、ここに、座ってくれるのに……」











いやらしい視線を送るナイトメアに、とたんに腹が立つ。











思わずバシン!と、
手加減なしの平手をナイトメアの背中にお見舞いしてしまった。











げほ ! げほおお ! ぐほおおっ ! ……
ごふっ !












きゃぁぁぁ !

ナイトメア !












アリスの平手に、ナイトメアが激しく咳きこんで、吐血した。











「ごめんなさい ! ナイトメア。
あなたに、手加減というものを忘れていたわ !
殺るつもりはなかったのよ !」











ぽたぽたと、ナイトメアの口から、血が滴り、書類についてしまうのではないかと、慌てて駆け寄って、口元を押さえて、背中をさすってやる。











「……酷い女だな ?……君は……」











ナイトメアはスーツのポケットからハンカチを取り出して口元を押える。











もう、すでに、ご自慢のシルクのワイシャツも鮮血まみれだ。











アリスに、憎まれ口を叩きながら、ハァハァと、吐血の後の荒い息をしている。











「ごほ、ごほ……」











「大丈夫 ? ナイトメア」











「はぁ、はぁ……、大丈夫……、じゃないかもしれない……」











――カク……――











「きゃぁぁ !!ナイトメア !
白目、剥かないでぇ !」











「ごふっ !……私はどの道、長くない……
アリス……。
私の願いを聞いてくれないか ?
……ハァ、……ハァ、……」











息を整えているナイトメアの顔色が、青白くなってゆく。










弱々しく、アリスの手をキュッと、握る。














「だっ ! 駄目よ !ナイトメア !!
逝っちゃ、駄目よ !」











たった、一発の張り手で、殺人なんて、シャレにならない。











アリスはナイトメアの手を力強く、励ますように握り返した。












「……あぁ、君は暖かいな……」














「ナイトメア !
何でも言う事、聞く !
聞くから……」










「………」











「ごほ、ごほ、……何でも ?」












「うん ! 聞くから、ナイトメア !!」











「嘘はないな ?」











「無いわ ! 
だから、私の前からいなくならないで !」











自然とアリス目頭が熱くなる。











本当に、どこか、遠くに消えてしまいそうな、ナイトメアの胸に、しっかりとしがみついた。











「行かないで ! 好きよ !
ナイトメア !
好きだから、私の前から逝っちゃヤダ !」











「やっと……、君の本音が聞けた……」











「え ?」











ナイトメアは死にそうになっていた人らしからぬ力で、アリスをグイッと引きよせる。











「――どうも、君は意地っ張りだからね ?
私の事が好きだろ ?
結婚してくれないか ?アリス」











引き寄せられたアリスはナイトメアの胸の中に簡単に収まってしまいながら、しばし、時が止まる。











ナイトメアの胸の音は、脈の代わりに、チクタクと、秒針の規則正しい音が響いている。











チク、タク、チク、タク……











時の流れと同じ、スピードのナイトメアの心臓の音。










――結婚?
もしかして、プロポーズ?











「アリス ?
返事は ?」











「……勿論!……嫌よ !!











〜〜!!











ナイトメアは悔しそうに顔を歪める。











今までのが、全て演技?











――そう、思うと、無性に腹が立つ。












グイッと、ナイトメアの胸から無理やり離れ、プイッと、そっぽを向いた。











「アリス……、げほ……」











ナイトメアは、まだ、咳込みを抑える演技をしている。










「怒らないでおくれ、アリス。
私は嬉しいんだよ。
君が私に見せてくれる、全ての本物の感情が……」










「知らない !」











一々、人を試すような事ばかりする、ナイトメアのじれったい、からかったような物言いに腹が立つ。











「うっ……、済まない……。
アリス。
君を試すつもりなんて、なかったんだ……。
ただ、きっかけが欲しかったんだ……」











シュンと、ナイトメアはうなだれる。











見た目からして芋虫。











芋虫or蓑虫の通り名はだてじゃない。











膝を抱いて丸まってしまった。











「君の事が好きだから……、
気が引きたかったんだ……。
他意はない……。
ただ、今は、時計屋がいるだろ ?
私は、時計屋には負けたくないんだ……」











確かに、アリスは時計屋(ユリウス)と、
以前、時計塔に暮らしていた。











しかし、どういった訳か、今は、ユリウスはこの塔のある、一角に住んでいる。











以前から、彼とは、居候とその家主と、いう関係。










「時計屋 ? ユリウス ?
……どうして、そこで、ユリウスが出てくるのよ ?」











「時計屋は君と一緒に暮らしていただろ ?
君は時計屋の事が、好きだと、言っていた……」











「何度も、言っているけど、ユリウスとは、
ナイトメアが思っているような関係じゃないわよ ?」











「……知っている……。
私は夢魔だぞ。
それも、君は知っているだろ ?」











フッと、ナイトメアが顔をあげる。










半泣きの情けない顔だ。











鼻水まで垂らしている。











ナイトメアのハンカチは、さっきの吐血で、
血だらけだ。











「困った人だ……」と、アリスはポケットからハンカチを出して、ナイトメアの顔を拭いてやった。
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