夜のティータイム
□仕事嫌いの夢魔に仕事をさせる方法
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外は真っ白な銀世界。
−−が。
部屋の中は暖かい。
脳の中までとろけて、
何もかもがどうでもよくなる。
ここは、クローバーの塔。
ナイトメアの執務室。
この部屋にふさわしいと言える、
豪華な暖炉がパチパチと小気味よく爆ぜて、部屋全体を暖めてくれる。
ユラユラと湯気がフワリと立っている入れたてのコーヒーは、
「おいしいよ。飲んでおくれ」
と、言わんばかりだ。
ウトウトとするには最適な条件が揃った心地良さだ。
「冗談じゃないわ !」
心地良さに負けてはイケナイと、
アリスは意を決して窓に向かってガタンと、窓を開けた。
当然のごとく、
窓を開ければ凍てつくような空気が部屋の中に入ってきて、
ア!という間に、部屋の温度が下がっていった。
自慢の万年筆を持ちながら、幸せそうな顔で夢の中に旅立とうとしていたナイトメアが、
その凍てつくような風を肌に感じ、突然、Uタ―ンをして帰ってきた。
「アリス、寒い !
凍死してしまう………」
夢の中の旅人は簡単に寒さに完敗して、
白旗を上げた。
全く、根性無しね。
普段から顔色の良くないナイトメアは、
更に顔色を青ざめさせながらこちらに向かい文句を言い始めた。
「君は、なんてひどい奴なんだ !
かわいそうに、私の膝でまどろんでいた猫までが、逃げてしまったではないか ?
動物虐待だ !」
ナイトメアの装備品とも言える猫が、寒さを察知して一目散に逃げて行った。
更にびゅうぅぅと、北風が入ってきて、部屋の中は急速快適冷凍状態だ。
「そこがおかしいのよ。
どうして、猫が、仕事に必要なのよ !」
夢の中に旅立つにも、仕事をするのにも、
猫は全く不必要だ。
書斎の机の上に、たまりにたまった書類の山が目に入らないのだろうか?
ナイトメアが、サボりにサボった結晶を……。
その書類の山を片付けない事には、どこにも旅立つ資格はない。
寒さのおかげで、『快適な執務室』と、いう夢から覚めた夢魔は、ガチガチと、体を震わせて、今にも倒れそうだ。
ナイトメアは、体が弱い。
想像を絶するほど、弱い。
熱を出す、
倒れる、
せき込むは標準使用。
吐血する
――は、完全にアウトだろう。
しかも、
放っておけば、いつまでも、いつまでも、
半永久的に夢の中に引きこもる。
典型的な病弱引きこもり人間だ。