夜のティータイム
□寝言に返事はしちゃいけません
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この国の時間はでたらめだ。
昼になったら、夜になる。
夕方になったら、朝になる。
まともに時が流れる事はめったにない。
今はエイプリールシーズン。
更に、でたらめな季節がある。
――あくまで、この塔の領土内だけ、冬だ。
病弱で引きこもりの夢魔に過酷な季節……。
バレンタインデー
――それは、女性から、好きな男性に対して、チョコレートやプレゼントを贈るイベント……
――って、私は聞いたぞ!
ワァワァ、ギャアギャアと、本日も、仕事机の上に、見事なチョモランマと築きながら、この、ナイトメア=ゴット・シャルクは、駄々をこねている。
名前だけは立派だ。
名前だけは……。
これだけの書類が目に入らない、都合のよい目の持ち主。
完全に、ご都合主義の男だ。
「ナイトメア、ここには、バレンタインデーなんて、存在しないわ !」
「いーや ! 私は知ってるぞ !
見ろ ! アリス。
外は冬だ ! 雪が降っている!」
「……見れば、わかるわよ…」
当たり前だ。
雪が降っていれば冬だ。
限りなく、冬だ。
「――だったら、私はバレンタインデーを決行する。
私はここの領主だ !
偉いんだからなっ!」
信じがたい事だが、ナイトメアはここの領主だ。
クローバーの塔の最高権力者なのだ。
それはとても、不本意な事だが、彼が行事を決行するといったら、必ず決行される。
「ナイトメア様、チャキ、チャキと、仕事してください。
そうすれば、バレンタインデーでも、豆まきでも、卒業式でも、何でも、お付き合いいたしますから……。
この書類を全て片付けてくだされば……」
グレイが落ち着いた様子で、更に、机の上に更に追加の書類を積み上げた。
「ナイトメア様、この、書類をひとやま、いえ、ひとやま半。
片付けたら、休憩にしましょう……」
「この、書類をひとやま半ーー ?!」
「冗談じゃない」と、ナイトメアが頭を振る。
「はい、はい……、そう、しないと、ナイトメア様の貴重な眠る時間も削らなくてはなりません。
たとえ、あなたが眠らなくって、廃人寸前になろうとも、体が動かなくなっても、ペンさえ持てれば書類にサインは出来ます。」
何があっても、仕事をやらせたいグレイ部下らしく、やんわりと、ものを言っているようだが……、
――とは、言いつつ、かなり、サクッと、ひどい事を言うものだ。
「私が倒れては仕事など、できるはずがないだろ !」
「いいえ、好都合です……。
その、勢いで、病院に送る事だって、出来ます。
体が動かなければ、何をするのにも楽です」
グレイの本音がポロリと出る。
上司と部下の二人のホームドラマは続く。
「グレイ……、バレンタインデーだぞぉ。
甘い、チョコを
アリスがくれるんだぞぉ」
「なっ !!
……私、チョコをあげるなんて、一言も、言って、いない」
「あぁ……グレイ……。
彼女が私たちにくれるチョコを想像してみろ……。
小さくて、可愛くて、こまごましたチョコだ……。
勿論 !
包装用紙はピンクの花柄に、決まりだ!!
――そして、その中に入っているのは――」
「ナイトメア様 !! それ、以上は――」
グレイの顔がほんのり、ピンクだ。
かなり、興奮している。
ナイトメアの言い方は、彼のつぼにはまっているようだ。
「グレイ ! 駄目よ !
これは罠よ !
あなた、「甘いものは好きではない」と、言ってたじゃない !」
「――あぁ……、小さくて、可愛い……」
ほわほわとした顔で彼は春のお花畑に行ってしまった……
これは、まずい!
ナイトメアの誘導は付き合いが長い彼の好きな言葉を得ている。
小さい、可愛い、次は――
「私がワラワラと、入っているんだ……。
――そう、それはもう、ワラワラと――」
「小さい、ナイトメア様が、ワラワラ……
――それは……とても、手が……、っと、お世話しがありそうな……」
「ナイトメア !
この間、もちつきをするって、お正月にしたばかりじゃない。
……塔主命令で……」
疲れる……全く、疲れる。
余談だが、この、お正月のもちつきで、彼はおもちを喉に詰まらせて、グレイに口の中に掃除機を突っ込まれ、餅を喉から吸い出すような事態になった。
end