番外編

□戦士はやて?
1ページ/2ページ

〜海鳴市 八神家〜


海鳴市で発生した闇の書事件。
この事件で一人の尊い命が失われ、事件は収束した。

しかし、それから数年後。海鳴市――引いては地球全土を、未曾有の大災害が襲っていた。
古代に活動していた戦闘集団――グロンギの復活。彼らはゲゲルと呼ばれる独自のルールで、大量殺人を犯していた。


「どうなっとるんや!」

「分かりませんッ! 主、私の傍から離れませんよう!」


海鳴市から時空管理局へと渡っていた八神はやてと守護騎士たち。
彼らは管理局の許可を取り、単身、日本へと向かっていた。そして、視界に入るのは目を覆いたくなるような光景。

鋭利な刃物で切り裂かれたのか、綺麗に首と頭が離れている遺体。トラックでひき殺された男性の遺体。
更には頭の内部に針のようなものを埋め込まれ、脳を破壊されて死にゆく少年。はやては、そんな光景に唇を噛む。


「ッ!? アイゼンが効かねぇ!?」

「紫電、一閃! ……効かない!?」


そんな中、遭遇したグロンギの一人。彼らは生半可な攻撃では傷一つつけられない、強靭な肉体を持っていた。
ヴィータのグラーフアイゼンがグロンギを襲い、シグナムの剣が彼らを襲う。しかし、彼らに致命傷を与える事は出来ない。

はやてが闇の書事件の際に得た魔法と言う力を持っても、彼らに致命傷。引いてはダメージを与える事すら不可能だった。
彼女たちの目の前で、次々と人々が倒れて行く。何の罪もない、変わらない毎日を過ごしていた人々が。はやては、悔しそうに唇を噛む。


「(私じゃ、なにも出来へんのか!?)」


しかし、はやての思いと裏腹に、守護騎士は傷つき、ゲゲルの被害者は増加の一途を辿るばかり。
だが、そんなはやての元に、あるデバイスが届けられた。それは、彼らグロンギに対抗できる武器を模したデバイス。


「いいかい、はやて君。たしかにこのデバイスは、彼ら未確認生命体に有効だ。
 だが、メリットがあればデメリットもある。君は、それでもそのデバイス――アークルを使うのかい?」

「わ、私は……!」


はやては受け取ったデバイスを見て、思わず躊躇いの表情を見せた。しかし、これは仕方のない事だ。
なにせ、そのデバイスを使用すれば徐々にそのデバイスが自分の身体を侵食していく。最終的には、殺戮マシーンになってしまう。

はやては手に持ったデバイス――アークルを、複雑そうな表情で見つめた。これを使えば、彼らを助けられる。
しかし、徐々に自分の身体が自分のものでなくなっていく。その恐怖に、自分は耐えられるのだろうか。


「うわッ!」

「ッ! ヴィータ!」

「くっ、す、すみません、主……」

「シグナム!」

「盾の、務め……。……果たして、見せ、る……!」

「ザフィーラァッ!」


はやてが迷っている間にも、彼らのゲゲルは続いている。彼らの攻撃に力尽き、守護騎士たちは膝を折った。
そしてはやては決意する。この身は彼ら守護騎士と親友の少女たちによって救われた身だ。なら、お返しをしないと。

はやては地に倒れ伏している守護騎士の前に立ちふさがる。彼女の視線の先には、怪人体のグロンギ。
怪人体のグロンギに若干圧倒されながらも、はやてはアークルを腰に装着。すると、アークルははやての体内に消えた。


「ぐ、うぅっ……!」

「バンザ ビガラザ」『なんだ、貴様は』

「と、通りすがりの管理局員や! 覚えとき!」


アークルがはやての体内に消えると、はやては腰部に鋭い痛みを覚える。しかし、はやては歯を食いしばった。
彼女の背後には、守るべき家族が居る。守るべき人々が居る。ならば、自分はこんな痛みごときに負けている場合ではない。

はやては腰部から伝わる激痛に顔を顰めながら、グロンギの怪人に向けて拳を放つ。それを、怪人は簡単に受け止めた。
と、はやての拳を受け止めたグロンギの怪人から驚きの雰囲気が伝わる。なにせ、受け止めた彼女の腕が変化していたのだから。


「変わったぁ……! いけるで!」

「チョグギビボス バジョ!」『調子に乗るなよ!』


はやての腕は、グロンギに拳を放った方の腕が変化していた。黒い、グローブのようなもの。
そしてその上を、白いプロテクターが覆っている。はやては内心でニヤリと笑みを浮かべると、もう片方の拳も放つ。

当然それもグロンギの怪人が受け止めるが、もう片方の腕も同様に変化した。そしてどんどんと蹴りを放つ。
はやてが蹴りを怪人に当てると、蹴りを放った足も腕と同様に変化する。そして最後に、胸部を覆うようにプロテクターが展開した。

頭部を覆う仮面はクワガタのようで、赤い複眼が付いている。はやては拳を構えると、怪人に向かって駆けだした。
何度もはやては拳を振るうが、力が完全に制御できていないのか。ある程度ダメージは与えられるが、致命傷は与えられない。


「こ、こなくそ……!」


はやての必死の奮闘あってか。なんとかグロンギの撃退に成功した。しかし、それはあくまで一時的なもの。
だが、これで一時的とはいえ体勢の立て直しが出来る。はやては守護騎士の皆と共に、地球の自宅へと帰還する。

そしてそんなはやての元に、予想外の事態が飛び込んできた。それは、新たな未確認生命体の出現。
しかも、その姿は先日はやてが変身した姿。だが、これも仕方のない事だろう。誰が見ても、あの姿は人ではなかった。


「でも、構わん。私は護るんや。みんなを……。私の大好きな人たちを」

「はい。主はやて。私もお供します」

「はやてが頑張ってんのに、アタシが寝てるわけにもいかねーだろ?」

「はやてちゃんの身体の事は、私に任せてください!」

「盾の務め。今度こそ果たして見せましょう」


しかし、はやては挫けない。自分の大切な人たちを守るため、はやては再び変身を決意する。
そして、それに応える守護騎士たち。剣の騎士と鉄槌の騎士は互いに護る事を誓い、湖の騎士は主の身体を守る。

盾の守護獣は主を守る事を決意し、再びグロンギとの再戦に臨む。相対するのは、燃え盛る某所の教会。
はやてはその燃え盛る教会の中で、一体のグロンギと相対していた。はやてはグロンギを睨みつける。


『良いかい、はやて君。彼らを倒すのに、白いままでは不完全だ。
 この文章には、少なくとも赤。青。緑。紫のフォームがある事が分かる』

『彼らを倒したければ、白い戦士以外の姿になるんだ!』

「なって、見せる……!」


燃え盛る教会の中、グロンギと相対しながら、はやては先日の言葉を思い出していた。
それによると、グロンギを倒すためには白い戦士では不完全らしい。せめて、赤い戦士にならなければ。

はやては絶対に守って見せると決意すると、両腕を腰にあてた。瞬間、アークルが腰部から浮かび上がってくる。
そしてはやては右手を左へ。左手を右側の腰にあてる。そして、ゆっくりとそれぞれの手を反対の方へと動かした。


「変身ッ!」











「どや? 意外とかっこえぇやろ?」

「え、えぇ。まぁ……」


ところかわって此処は海鳴市の八神家のリビング。そこで、ウィンとはやてはソファに腰掛けていた。
彼らの視線の先には、デカデカと描かれている「仮面ライダーハヤテ」と言うタイトルロゴ。

それと言うのも、先ほどの映像などは全てはやてが撮影したVTRなのである。はやては満足そうに笑みを浮かべた。
撮影は色々と大変だったが、得るものも大きかったと思う。原作クウガの五代雄介の気持ちが、若干だが分かったような気がした。

そして一方、はやての隣に腰掛けているウィンは曖昧な笑みを浮かべる。発想は、面白いと思うのだ。
だが、管理局の局員を大勢使ってあのVTRを撮るのはどうなのだろう。職権乱用ではないのかと、ウィンは疑問に思う。


「どや? 雷ちゃんもやってみんか?」

「え? 良いの!? やったー! 僕もやるー!」


と、ウィンがはやての権力の使い方に首を傾げていると、元気な声がリビングから聞こえた。
視線をそちらへと向ければ、嬉しそうな表情で飛び跳ねている雷刃の姿。子供のような光景に、ウィンは頬を緩める。

彼女――雷刃・テスタロッサは、ピョンっとソファから飛び降りると、はやての元へ駆ける。
その様子を見て、隣に座っていた少女――星光・テスタロッサが深々と嘆息した。


「ほら。これが撮影に使ったアークルやよ」

「おぉ〜! 凄いぞ〜! 強いぞ〜! かっこいいぞ〜!」


はやてがゴソゴソとタンスの中から、撮影に使用したと思われるベルトを取り出す。
それを、雷刃は嬉しそうに受け取ると、手際良く自身の腰に装着した。すると、変な音がする。

しかし、雷刃は気にしていないのか。瞳をキラキラさせながら、腰に装着されているベルトを見つめた。
その光景に、はやてはグッとサムズアップを行う。どうやら、はやての脳内になにかクルものがあったようだ。


「んしょ、んしょ……」

「で、フェイト? なにをしているんです?」

「え? え、えへへ……」


一方、はやてと雷刃の様子を微笑ましく見つめていると、ウィンは膝に違和感を感じた。
なんだろうと視線を膝に向けると、そこにはこっそりとウィンの膝に乗ろうとしているフェイト。

どうやら雷刃のマークがなくなったのを良い事に、ウィンの膝を独り占めしようと言う魂胆らしい。
ウィンはそんなフェイトの様子に嘆息すると、ジトっとした視線をフェイトに向ける。

すると、フェイトはわざとらしい笑みを浮かべた。視線が辺りを泳いでおり、動揺しているのが見て取れる。
しかしそれでも膝の上に乗りたいのか。ウィンの膝に手を当てたまま、フェイトは動こうとはしない。


「あー! ダメだよフェイト! ウィンの膝は僕のなんだぞー!」


と、ウィンがフェイトの様子に嘆息していると、雷刃の元気な声がリビングに響いた。
それと同時、ドタドタと騒がしい足音を立てて雷刃がウィンとフェイトの元に駆け寄る。

そして雷刃はその可愛らしい頬っぺたをプクリと膨らませた。その様子は、幼いフェイトと同じである。
ウィンは雷刃の様子を見て、昔の事を思い出した。懐かしくなって、ウィンは思わずほほ笑みを浮かべる。


「ほら。雷刃も暴れないでください。まだ、ビデオは残ってますよ?」

「うん。じゃあ、はやて。早く見よう!」

「ふぅ。仕方ないなぁ」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ