番外編
□Nanoha May Cry The 1st
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『あ!』
『急いで!』
画面の中のなのはは弾き飛ばされたプレゼントを拾いに戻ろうとするが、それをウィンが引き止めた。
チラリと視線を赤いコートの男に向ければ、複数人を相手に一歩も引かない戦いを行っている。
否、一歩も引かないどころか圧倒的な戦闘を繰り広げていた。
赤いコートの男が剣を振るうたびに、名も無き騎士達の命が一つ。また一つと散っていく。
『なのは、急いで! 早くここを脱出してください!』
画面の中のウィンが必死に叫ぶが、なのはの視線はチラチラと床に落ちたプレゼントと騎士達に向けられている。
床に落ちたプレゼントは誰かが踏んでしまったのか。ペシャンコに潰れてしまっていた。
そして赤いコートの男に向かう騎士達。相変わらず、一方的な戦闘が繰り広げられている。
今、赤いコートの男を相手取っていた騎士が倒れ、残っているのはシグナムだけ。ゆらり、とシグナムは剣を抜く。
『! シグナムさん!』
『!? タカマチ!?』
と、いざシグナムと赤いコートの男が斬り合おうとした時、なのはがシグナムに向かって駆けた。
ウィンとシグナムは突然のなのはの行動に目を見開く。次いで、ウィンも慌ててなのはの後を追った。
慌ててなのはに追いつこうと駆けているウィンの目に、ゆらりと立ち上がる騎士が見えた。
どうやら、未だ意識。と言うか、命のある騎士がいたらしい。その騎士は、なんとか赤いコートの男に斬りかかる。
しかしそんな騎士の一撃は、いとも簡単に赤いコートの男に受け止められた。
背中に背負っていた大剣で騎士の剣を受け止めると、グルンと大剣を一閃。騎士の腹から、赤い血液が噴出す。
『ひっ!』
シグナムに向かって駆けていたなのはは、騎士の遺体に息を呑んだ。
そして赤いコートの男はそんななのはの悲鳴を聞きとがめたのか。ゆっくりと視線をなのはに向ける。
赤いコートの男と、なのはの視線がかち合った。なのははペタンと腰を抜かしてしまう。
一歩一歩。ゆっくりと、赤いコートの男はなのはに向かって歩き始めた。ウィンは舌打ちと共に全力で駆ける。
『はぁあああああっ!』
ウィンは全力で赤いコートの男と距離を縮めると、両脚で床を踏み切った。
走った勢いもそのままに、ウィンは空中で両脚を揃えると赤いコートの男に蹴りを放つ。
咄嗟の事態に、流石の赤いコートの男も対処できなかったようだ。
ウィンの渾身の蹴りを顔に受け、赤いコートの男は後方に吹き飛ばされる。
普通ならば、あの威力の蹴りを食らってはかなりのダメージを負っているだろう。
しかし、画面の中のウィンは追撃を止めない。着地すると胸元に左腕を差込み、一丁の拳銃を取り出す。
それを赤いコートの男に向かって発砲。未だ宙に浮いている赤い男に銃弾が向かう。
一方吹き飛ばされた赤いコートの男は、手に持っていた剣で銃弾を弾こうとでも言うのだろうか。
グッと剣を振るうが、ウィンの放った拳銃の威力に負けて更に後方に吹き飛ばされた。
先ほどの場面が若干スローモーションだったから分かったが、ウィンの持っている銃は二発同時に放てるらしい。
更に早い速度で後方に吹き飛ばされた赤いコートの男は、背後にあった石像の頭に剣を突き刺した。
あのままの威力で石像にぶつかるのはマズイと判断したのだろう。勢いを殺し、石像の腕に着地する。
『だぁあああああっ!』
そして再度。画面の中から、ウィンの雄叫びが聞こえた。
画面の中の赤いコートの男と、画面を見ているウィンたちはシンクロしたかのように目を見開く。
赤いコートの男の視線の先ではこちらに向かって脚を突き出しているウィン。
咄嗟に身体を横にして剣を回避するが、ウィンが放った蹴りは、石像に突き刺さっている男の剣を更に深く突き刺す。
ウィンは自分が蹴った剣が深く突き刺さったのを確認すると、バッと男と距離を取った。
巨大な石像の肩の上で、ウィンと赤いコートの男は互いに銃を突きつけながら向き合う。
片や白と黒の二丁拳銃。片や、一度に二発の銃弾を放てる拳銃。
『ウィン君!』
『なのは! シグナムと共に逃げてください! 逃げる時間は私が稼ぎます!』
チラリと視線を下に向ければ、心配そうな表情のなのはがウィンを見つめていた。
と、いつの間にか無言になっているのに気がつき、現実世界のウィンはソッと二人に視線を向ける。
なのはもフェイトも。どうやらゲームのムービーに見入っているようだ。
しかもなのははゲーム中に登場しているからか。両手をグッと握り締めている。
『テスタロッサ! すぐに応援を呼ぶ! 死ぬ事は許さんぞ!』
と、聞き慣れたシグナムの声が聞こえ、視線を画面に戻した。
視線を戻した画面の先では、シグナムがなのはを庇いながら教会から脱出していく。
なのはは脱出する事に嫌がったが、シグナムが無理やり脱出させた。
それに画面の中のウィンはホッと息を吐いている。どうやら、自分はどこまでもなのはに甘いらしい。
『死ぬ事は許さない……ですか。無茶を言いますね』
暫しウィンと赤いコートの男は、互いに銃を突き付けあっていた。
そして付近から完全に人の気配が消えると、ウィンはポツリと呟いた。
先ほどまで耳に当てていたヘッドフォンを首を捻りながら外すと、首を振って放り投げる。
放り投げられたヘッドフォンは放物線を描きながら、ゆっくりと地面に落下していく。
そしてヘッドフォンが地面に落下したのだろう。ガシャンと壊れたような音がした。
ソレと同時、ウィンが赤いコートの男に向かって銃弾を放つ。しかし、赤いコートの男はソレを跳躍する事で回避。
ウィンが慌てて視線をそちらに向ければ、赤い男は上空からウィンを拳銃で狙っている。
慌ててウィンも跳躍すると、先ほどまでウィンが立っていた場所に、幾つもの火花が飛び散った。
「……ここまでが、導入部ですか」
「ふわぁ……凄い……」
と、赤いコートの男の放った銃弾が着弾したと同時、画面が変わった。
どうやらオープニングデモが終了したようで、今の画面には「ミッション01」と表示されている。
先ほどまで真剣にムービーに見入っていた二人は、はぁと小さく嘆息する。
まさかあそこまでムービーに見入るとは思わなかったのだろう。ウィンは苦笑する。
そしてミッションメニューに視線を向ければ、ミッションスタート。
ミッションセレクト。パワーアップと三つのアイコンが点滅している。
だが、ここでパワーアップは出来ないだろう。なにせ、まだゲームを始めたばかり。
なので、必然的にミッションセレクトも選ぶ事はない。なにせ、これが初ミッション。
カチカチとボタンを操作して、ミッションスタートを選択する。
すると、先ほどまで見ていたローディング画面が現れ、少しすると画面が切り替わった。
画面の中では、こちらに背を向けて立っているウィン。やはり、ウィンを操作するのだろう。
そしてウィンと相対しているのは先ほどの赤いコートの男。画面の下には体力だろうか。メーターがある。
「これは……チュートリアルみたいだね」
「? チュートリアルって?」
「う〜ん。操作の確認みたいなものかな?」
と、暫し画面を眺めていると新しいウインドウが開かれた。
そこには、基本的な操作方法などが表示されている。
どうやらこれはチュートリアルのようだ。なのはがポツリと呟く。
フェイトはチュートリアルの意味が分からないようで、コテンと首を傾げた。
それになのはが分かりやすく説明すると、ウィンが操作を再開する。
移動。ジャンプ。回避。遠距離攻撃。近接攻撃。これから必要になる操作を覚えていく。
『仕留めたと思ったが……凄ェ腕だな。なにか仕込んでるのか?』
基本的な行動を覚え終わったからだろうか。画面が切り替わり、再びムービーが流れる。
相変わらず激しい戦闘を繰り広げているウィンと赤いコートの男。しかし、赤い男のほうに分があるようだ。
大剣による凄まじい速度での突きを避けきれないと判断したのか。画面の中のウィンは、右腕で身体をかばう。
瞬間、激しい衝撃波が右腕から放たれた。そして、包帯で隠されていた右腕が露になる。
「! アレは……」
「なに、アレは……」
現実世界のウィンたちも、画面の中のウィンの腕を見て驚愕の表情を浮かべる。
ゲーム画面のウィンの右腕。それは、まるで異形の腕だった。
青白い右腕に、まるでそれを覆うかのような赤い外殻。完全に、人のものではない。
もしも普通の人間ならば、その腕を見れば叫ぶなりするだろう。しかし、赤いコートの男は首を傾げる。
『喋れたんですか……!』
『当たり前だろ? 喋れないなんて、自己紹介したか?』
赤いコートの男は、ウィンとの会話に気を取られているのか。
相変わらずウィンの異形の腕に剣を突きつけたまま、何故か勝ち誇ったように笑っている。
そして、画面の中のウィンは動いた。突きつけられた剣を、その異形の腕で握り締める。
赤いコートの男は慌てて剣を離そうとしたが、画面の中のウィンの方が早かった。剣を握り締め、思い切り投げつける。
『はぁ、はぁ……先ほどの質問ですが、残念ながら企業秘密です』
ウィンが男に向かって苦笑しながらそう告げると、再び画面が戦闘画面に変わる。
今度使用できるようになったのは先ほどまで封印していた異形の右腕。その右腕を使い、赤い男と闘う。
隣から伝わるなのはとフェイトの声援を受けながら、ウィンは必死に操作する。
なにせ隣にいるのはウィンが好意を向けている二人。無様なところは見せられない。
必死にボタンを操作して、なんとか画面下部のメーターを空にする。
すると、再びムービーが挿入され、赤い男との会話が行われる。
それによると、どうやらこのゲームの中のウィンは人間ではないようだ。
しかも、どうやら赤いコートの男も人間ではないらしい。腹に剣が突き刺さって尚、生きている。
赤い男が侵入してきたステンドグラスから脱出すると、画面に銃弾が打ち込まれた。
否、銃弾が打ち込まれたような映像が流れ、リザルト画面に移行する。ウィンのランクは、Bだった。
「ふぅ。中々面白いですね」
「そうだね。私は次がどうなるのかドキドキだよぉ〜」
「はは。ちなみに、コレは数日後に一般発売するんだ。もし良かったら、これは持っていってくれたまえ」
「え、良いんですか?」
「テストプレイのご褒美さ」
ゲームに一区切りがつき、ウィンは深い息をついた。
中々ゲームを中断する気になれず、結局ここまでやってしまった。
隣に視線を向ければ、ウィン同様深い息を吐いているなのは。どうやらフェイトも同じらしい。
スカリエッティはそんな三人に苦笑すると、このゲームが一般で発売する事を告げた。
しかも、一足先にこのゲームをウィンたちにくれるらしい。
ウィンはそんなスカリエッティの言葉に、驚いたような表情を浮かべた。
視線の先のスカリエッティはニコニコと微笑みながら頷いている。
どうやら満足できる出来だったらしい。かなり満足そうな表情を浮かべている。
ウィンたちはそんなスカリエッティにお礼を告げると、再びゲームを再開した。
聞いた話では、プレイヤーとヒロインの選択で様々な特典がもらえるらしい。
操作をフェイトに交代すると、ウィンはフェイトのプレイをニコニコと眺めた。