番外編

□Nanoha May Cry The 1st
1ページ/3ページ

〜ミッドチルダ 機動六課〜


「さぁ、ウィン君! 記念すべきテストプレイだよ!」

「いやにテンションが高いですね……」


機動六課の宿舎の一室。ウィンの部屋で、スカリエッティが高笑いを上げた。
はぁ、と小さく嘆息しながら、ウィンは部屋の中にいるスカリエッティに視線を向ける。

スカリエッティは部屋の中で高笑いを上げながら、なにやら黒い機械を操作していた。
それは世間一般ではプレ○ステー○ョン3と呼ばれる代物なのだが、ウィンはその事を知らない。

ウィンはスカリエッティが操る不審な機械に訝しげな視線を向けながら、隣に腰掛ける。
どうもスカリエッティが何かを開発したようで、ウィンにそのテストプレイを行って欲しいとの事。


「その名も、Nanoha May Cryだよ!」

「直訳すると、『なのはも泣き出す』ですか」


ウィンの視線の先では、ディスプレイに次々と読み込み画面が映し出されていく。
青白いローディングと言う文字が煌き、データの読み込みをしているのが分かる。


「ウィン君? いるのかな?」

「なんだかスカリエッティが呼んでるみたいだったけど……」


暫しディスクの読み込み画面を眺めていると、不意に部屋の扉が開いた。
ウィンの部屋に顔を覗かせたのは、彼の同僚でもあるなのはとフェイト。

なのはは勢い良く部屋の扉を開けると、ウィンの隣に腰を下ろす。
ちなみにフェイトはなのはがウィンの隣を取ると、すぐさまもう片方に腰を下ろした。


「えぇ。何か、スカリエッティが開発したようで……」

「あ、コレって私達を題材にしたゲームだよね?」

「? そうなんですか?」

「その通りだよ、ウィン君」


ウィンはそんな二人の行動に苦笑すると、スカリエッティに視線を向けた。
どうやらデータの読み込みが完了したようで、今はオープニングだろうか。ムービーが流れている。

ゲームの舞台は何処かの都市のようだ。何処か歴史を感じさせる町並みが映し出されている。
そしてその町並みを、幾人もの人物が駆け抜けていた。そしてそれは、紛れもないウィンたち。

それぞれその町並みに違和感のない服装に身を包み、地面から現れる異形の怪物と闘っている。
ある者は手に持った剣で。ある者は手に持った拳銃で。ある者は自身の肉体を武器にして。


「ふわぁ……」

「ムービーがとっても綺麗だね」

「これは、私が腕によりをかけたからね」


暫くの間ムービーが流れ、ディスプレイにタイトル画面が映し出される。
中央にはタイトルロゴだろうか。目を引く英文字が、デカデカと映し出されている。

そのタイトルロゴは、Nanoha May Cry The 1st。
どうやら続編も作る気満々なようで、丁寧にタイトルに1stとついている。

スカリエッティは手に持ったコントローラーで操作して、タイトルの「New Game」と言うアイコンを押す。
すると、「Nanoha May Cry The 1st」と何処かで聞いたような声が響く。この声はどうやらチンクのようだ。


「おや。プレイヤーが選べるんですか?」

「あぁ。コレが、なのはメイクライの売りだからね」

「まずは兄さんでプレイしよう?」

「仕方ありませんね」


スカリエッティが「New Game」と言うアイコンを押すと、サムネイル画像が幾つか表示される。
そこに映し出されているのは機動六課の主な人物で、なのはやフェイト。果てにはプレシアすら入っていた。

チラリと視線をディスプレイの上部に向ければ、「プレイヤーセレクト」と銘打ってある。
どうやら、ここでこのゲームの主人公を決めるらしい。しかし、総主人公数が約二十人程とはどういう事だろうか。

暫し誰でプレイするか迷っていると、ウィンの隣のフェイトが声をかけた。
どうやらなのはやスカリエッティも賛成のようで、特に依存はないらしい。

カチカチとボタンを操作し、ウィンの画像が描かれている場所でスカリエッティは○ボタンを押した。
すると、いつ音声を採取したのだろうか。「では、がんばりましょう」とウィンの音声が流れる。


「あれ? この画面って、なに?」

「これはヒロイン選択だね。主人公のヒロインを決めるんだ」

「「!?」」


プレイヤーキャラクターをウィンに決めると、新たな画面が開かれた。
新たに表示された画面は、先ほどと大差ない。しかし、ウィンの画像が黒く潰れている。

画面の上部には、スカリエッティが言ったとおり「ヒロインセレクト」と表示されている。
そしてそれを聞いたなのはとフェイトは、ハッと息を呑むと互いに視線で牽制しあった。

バチバチとまるで火花が散っているような幻覚が見える。ウィンは思わず胃を押さえた。
ウィンの隣でコントローラを握っているスカリエッティは、そんな二人を微笑ましく見つめている。


「「じゃんけんぽん!」」


暫し互いに一歩も譲らなかったが、どうやらジャンケンで決めるらしい。
二人は同時に自分の拳を突き出す。なのははグー。フェイトはチョキ。


「やったー!」

「う、うそ……」


ジャンケンの勝者はなのはだったようで、なのははニコニコとご機嫌だ。
一方ジャンケンに負けたフェイトは、ガクリと床に膝を着いている。どうやら、よほど悔しいらしい。

ウィンとスカリエッティはそんな二人に苦笑すると、ディスプレイに視線を向けた。
カチカチとボタンを操作し、なのはの画像で○ボタンを押す。すると、またもやその人物の音声が流れた。


『信じてるから……』

「それにしても、良く出来た合成音声ですね」

「いやいや。コレはなのはさん自ら収録してくれたんだよ」

「何をやっているんですか!?」

「にゃ、にゃはは……」


流れたなのはの音声に感心していると、サラリとスカリエッティが告げる。
その言葉に驚いたのは紛れもないウィン。カッと目を見開き、なのはに視線を向けている。

そう言えば数ヶ月ほど前、なのはやフェイトが訓練に遅れて来た事があった。
念のために何時頃収録したのかスカリエッティに尋ねると、数ヶ月前だと答えが返ってくる。


「それよりも、はい」

「? なんですか、コレは」

「何って、コントローラだよ。プレイヤーはウィン君なんだから、ウィン君がプレイしないと」

「えぇ!?」


暫しなのはに呆れた視線を向けていると、ウィンの手に固い何かが触れた。
視線をそちらに向けてみれば、先ほどまでスカリエッティが握っていたコントローラがある。

はい、とスカリエッティに渡され、ウィンは思わず受け取ってしまう。
スカリエッティから受け取ったコントローラを訝しげに見つめながら、ウィンは尋ねた。

だが、返って来た答えに思わず驚いてしまう。てっきり、スカリエッティがプレイするものだと思っていた。
しかも、ウィンはこちらの世界に生まれてから一度もテレビゲームをプレイした事がない。相当ブランクがある。


「ほらほら、始まったよ」

「う、うぅう……」


なんとかコントローラをスカリエッティに返そうとしたが、スカリエッティにやんわりと拒絶される。
そしてとうとうオープニングデモが流れ、部屋にいる人間の視線はそちらへと向けられた。

先ほどムービーで見た町並みを、一人の青年が疾走している。それは、先ほど選択したウィンだった。
所々で、ウィンが向かっている目的地だろうか。教会のような場所で、歌姫の衣装を着たなのはが歌を歌っている。

町並みを駆けて行くウィンは、そのなのはの歌声に合わせるように町を駆ける。
いつものサラサラとした金色の髪を振り乱し、いつもとは違った青と赤を基調とした服装。

右腕を怪我でもしているのだろうか。包帯で釣りながら、ウィンは町並みを駆ける。
しかし、ウィンの足は唐突に止まる。その原因は、ウィンの目前に現れた数多の異形の怪物。


「うわ、ウィン君凄い!」

「人間業ではないですね……」


四人の視線を集めながら、オープニングデモは流れていく。
異形の怪物に一瞬ウィンは足を止めたが、時間が無いとばかりに怪物に向かっていく。

怪物から剣のような武器を奪い取り、空中で様々な体術を使用する。
とても現実では行えないような行動に、なのはとフェイトは感嘆の表情を浮かべ、ウィンは苦笑する。

と、そんなときオープニングデモの内容が変わる。先ほどのなのはの元へ、カメラが戻った。
なのはは広間のような場所で歌いながら、ふとある長いすに視線を向ける。そこには、空席しかない。

まるで誰かを待っているかのような光景に、ウィンは訝しげな表情を浮かべる。
だが、先ほどのセレクト画面を思い出して納得した。なのはは、ウィンを待っている。


「……なんだか、ウィン君が可愛いよ!?」

「なんですか、なのは。その失礼な反応は」


ウィンは闘っていた異形の怪物を全滅させると、再び城のような場所に向けて走り出す。
そして、画面は再びなのはの元へと戻る。そろそろ歌が終わるのだろうか。徐々に盛り上がっている。

なのはが聞き慣れぬ言語の歌を歌い終えると、広間の全員が拍手を送った。
その拍手に、なのはは思わず頬を赤く染めている。そして、チラリと先ほど見た席に視線を向ける。

そこには、先ほどまで戦闘を行っていたウィン。興味がないようにしながら、しっかりとなのはに視線を向けている。
それを見てなのはが微笑むと、ウィンが頬を赤く染めてソッポを向いた。それに、現実世界のなのはがポツリと呟く。

それに思わずツッコミを入れてしまうのは、無理がないかもしれない。
なのはは苦笑いを浮かべると画面に視線を向ける。そこには、一礼して壇上から降りるなのは。

画面の中のなのははウィンの隣に腰掛ける。
と、まるでタイミングを見計らったかのようになのはの膝に白い箱が置かれた。
画面の中と現実世界のなのはがポカンとした表情を浮かべながら、箱が飛んで来たほうに視線を向ける。

二人の視線の先では、ヘッドフォンを耳に当てながらそっぽを向いているウィン。
現実世界のウィンは、思わず頬を染めてしまう。自分がやったわけではないが、とても恥ずかしい。

チラリと視線をフェイトに向ければ、フェイトは「むぅ〜!」と頬を膨らませている。
恐らく、先ほどのヒロインセレクトでなのはではなくフェイトを選んでいれば、フェイトがなのはの場所にいたはず。


『ウィン君。どうしたの?』

『帰るんですよ。お祈りは苦手なんです』

「うわ。ウィン君ちゃんとお祈りしないとダメだよ?」

「私に言われても困りますよ」


暫しオープニングデモを眺めていると、教皇だろうか。その人物は何やらお祈りのような体勢を取っている。
画面の中のウィンは、そんな教皇と周囲の人間達のお祈りの姿を見ると、長いすから腰を上げた。

それに疑問の声を上げたのはなのは。なのははお祈りのポーズを行いながら、ウィンに視線を向ける。
ウィンはやれやれとでも言うように頭を左右に振ると、なのはにそう告げた。らしくない行動である。

だが、これは所詮は創作物である架空のウィン。
本物のウィンと比較しなくても良いだろう。


『でも……』

『眠くなるだけですしね。それなら、鍛錬でもしていたほうがマシです』

「私がどんどん筋肉馬鹿になっていく……」

「ウィン君の人物像は、少しばかり弄ってあるからね」


画面の中ではなのはが出て行こうとしているウィンを引き止めている。
しかし、画面の中のウィンは相変わらず面倒くさげだ。思わず苦笑いを浮かべる。

そしてチラリと視線をスカリエッティに向ければ、スカリエッティは携帯ゲーム機で何かをプレイしていた。
カタカタと激しいボタン操作から、なにかアクション系統のゲームだと分かる。


――パリィイイイイインッッッ!!!

「ん?」

「あれ?」

「この人……」


ウィンがスカリエッティを眺めていると、唐突にガラスの割れる音が聞こえた。
なんだろうと視線を画面に戻せば、天井だろうか。ステンドグラスを破り、赤いコートを着た誰かが落下してくる。

落下してきた赤いコートの人物は、中央で説法を説いていた教皇の目前に降り立った。
画面の中のウィンとなのは。それに、先ほどまで説法を説いていた教皇は一瞬動きが止まる。

そして三人が動きを止めている間に、赤いコートを着た人物は動いた。
サッと何処からか拳銃を取り出すと、教皇の額に突きつける。

瞬間、画面から渇いた音――銃声が響いた。
一瞬、教会の中が静まり返る。


『教皇!』


数瞬の後、舞台の袖から騎士甲冑に身を包んだシグナムが叫んだ。騎士役だろうか。
シグナムが叫ぶと同時、教会の中がパニックに陥る。観衆達は、我先にと逃げ出し始めた。

一方、教皇に鉛玉をプレゼントした赤いコートの男は、ゆっくりと背後に振り返る。
太陽の光を受けて、キラキラと輝く銀髪。顔には、教皇の血液だろうか。ベッタリと付着していた。


『敵襲だ! 取り押さえろ!』


赤いコートの男が振り返ると同時、画面の中のシグナムが叫んだ。中々板についている。
シグナムの指示を受けて、シグナムの傍に控えていた騎士達は腰に下げていた剣を抜き放つ。

雄叫びを上げながら騎士達が赤いコートの男に向かうが、赤いコートの男は慌てた様子を見せない。
一方、画面の中で動きを止めていたウィンとなのはは、シグナムの声に我に返った。

ウィンは慌ててなのはの手を引くと、出口に向かって駆け出そうとする。
と、そんなとき観衆の誰かとなのはがぶつかった。手に持っていたプレゼントが、弾き飛ばされる。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ