番外編

□ホワイトデー特別編
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〜遠見市 某所のマンション〜


「ふみゅ……」


奇妙な声をあげて、フェイト・テスタロッサは目を覚ました。
ぼんやりとした視界に飛び込んでくるのは、いつもの見慣れた寝室。

しばしぼんやりと眺めていると、トタトタと軽い足音が聞こえてきた。
誰だろうと視線を部屋の入り口に向ける。と、隣にも視線を向けるが、兄の姿がない。

恐らく、兄はもう既に起きているのだろう。フェイトは、朝が苦手なのだ。
むにゃむにゃと寝ぼけ眼でベッドで布団に包まっていると、ガチャリと扉が開いた。


「フェイト? 起きていますか?」

「ふにゅ……兄さん……?」

「ふふ。相変わらず眠そうですね」


部屋の中に入ってきたのは、私服に身を包んだウィンだった。
ウィンはベッドの中で丸まっているフェイトを見つけると、クスクスと笑みを浮かべる。

フェイトは兄に笑われ、恥ずかしいと思ったが、布団の魔力には叶いそうにない。
むにゃむにゃと奇妙な寝言を呟きながら、フェイトは布団に潜ってしまう。

だが、流石にそろそろ起きないと不味いのか。ウィンがフェイトを揺り起した。
「朝ですよ。起きてください」と告げながらウィンは必死に起こそうとするが、フェイトは中々出てこない。


「フェイト。早く起きないと、朝ごはんがなくなりますよ」

「それはやだよぉ〜……」

「じゃあ、早く起きましょう」

「起きるのもイヤぁ〜」

「……まったく」


中々起き出そうとしないフェイトに、ウィンは苦笑しながら声をかける。
以前から共に住むようになったフェイトはとても可愛らしく、ウィンは頬がにやけてしまう。

顔や容姿が整っているのは勿論だが、普段の言動がとても可愛らしい。
「兄さん、兄さん」と言いながら後をついて来られると、とても保護欲が刺激される。

しかしそろそろ起こさないと、せっかくプレシアが作ってくれた朝食が覚めてしまう。
ウィンは内心で「ごめんなさい」とフェイトに告げると、フェイトの布団を引っぺがした。


「あぅ! 寒いよぉ!」

「だったら、早く起きてご飯を食べましょう」

「うぅう……」


布団を引っぺがしたウィンの視界に、ベッドの真ん中で包まっているフェイトが入った。
フェイトは、以前から着用するようになったスケスケのネグリジェを着用している。そっと、視線をそらした。

このスケスケのネグリジェはプレシアのお勧めらしいが、悪意が感じられるのはどう言う事だろうか。
ウィンはほぼ裸と言っても過言ではないフェイトから視線を逸らすと、早く着替えてキッチンに来るように告げた。

ウィンの精神年齢はほぼ二十歳。小学生ほどの子供の裸に興奮しないが、いけない気分になってくる。
やはり、あのスケスケのネグリジェがいけないのだろうか。チラリズムはいつの世も、男の心を掴んでしまう。

一方、ウィンが立ち去った寝室で、フェイトは頬を膨らませながらもベッドから抜け出した。
以前から共に寝てくれるようになった兄は優しいのだが、どうしても自分の事を意識してくれない。


「うぅ……」


そして思い出すのは、一か月ほど前から行動を共にするようになった二人の少女。
その二人の少女を思い出して、フェイトは胸を押さえた。なんだか、とても胸が苦しい。

兄を独占したいのに。兄の傍にずっといたいのに。内心で、叫び出しそうになる。
だが、その言葉を兄に言おうとはしない。言おうと思えば言えるのだが、とても恥ずかしいのだ。

フェイトはブンブンと頭を振ると、モソモソとベッドから起き出す。
あのままベッドにいたら、良くない方向に思考が向かってしまうかもしれないからだ。

ベッドから抜け出したフェイトは、手早くネグリジェを脱ぎ捨てるといつものワンピースを身に着ける。
この黒いワンピースはフェイトのお気に入りで、プレシアにも「似合うわね」と言われているお気に入りなのだ。

ぽてぽてとキッチンに向かいながら、フェイトはこれからどうしようか考える。
ようやくジュエルシード回収の目処が立ったのだ。これからは、多少は余裕が出来るだろう。


「おはよう、母さん。アルフ」

「おはよう、フェイト。よく眠れたかしら?」

「おはよう、フェイト」


これからの事について考えを巡らせていると、いつ間にかキッチンに到着していたようだ。
キッチンで可愛らしいフリルのついたエプロンを身につけているプレシアとアルフに声をかける。

プレシアはいつも通りのニコニコと楽しそうな笑みを浮かべながら、フェイトに訊ねる。
チラリと視線をテーブルに向ければ、すでにアルフは席についていた。機嫌が良さそうな表情で、朝食を待っている。


「うん。ちょっと寒かったけど、大丈夫だよ」

「ふふ。フェイトは本当に寒がりね」


フェイトは二人の姿を確認すると、コクリとプレシアの問いに答えた。
プレシアはフェイトの答えが面白いのか、クスリと笑みを浮かべると、フェイトに近寄る。

そしてプレシアは、ギュッとフェイトを抱きしめた。温かい匂いが、フェイトを包む。
プレシアのこの行動はフェイトやウィンと暮らすようになってからの日課になっており、プレシアは毎朝楽しみにしている。

母の胸に抱かれ、フェイトは満足そうな笑みを浮かべた。とても、とても温かい。
視線をアルフやウィンに向けると、二人とも温かい笑みを浮かべている。まるで、子供を見守る親のようだ。


「さ、朝ごはんにしましょう」

「そうですね。すでに、用意はできていますし」


しばしプレシアはフェイトの感触を楽しむと、皆に声をかけた。
フェイトは内心で残念に思いながらも、渋々とプレシアから離れる。

求めて止まなかった母の胸はとても居心地が良かった。兄と同様、独り占めにしたい。
一方、フェイトのそんな様子に苦笑いを浮かべながらも、ウィンが朝食の乗った皿を並べる。

今朝の朝ごはんは、至ってシンプルな目玉焼きと白いご飯。それに出来立てのお味噌汁。
ウィンやフェイトと共に暮らすようになってから、プレシアは食事に気をつけるようになっていた。


「そういえば、今日はホワイトデーね」

「? ほわいとでー?」

「えぇ。バレンタインデーにチョコを渡したでしょう?
 今日は、そのチョコレートのお返しと告白のお返事を貰える日なの」

「! 本当!?」

「えぇ」


全員席につき、「いただきます」の号令と共に朝ごはんに手をつける。
しばし無言で朝食を食べていると、ふとプレシアが思い出したかのように声を上げた。

パクパクとご飯を口に運んでいたフェイトは茶碗から顔をあげ、プレシアに視線を向ける。
はて。ホワイトデーとは何なのだろう。そんな疑問が、フェイトの頭と心を締め、コテンと首を傾げる。

チラリと視線をウィンに向ければ、ウィンはホワイトデーが何なのか分かっているのだろう。
クスリと笑みを浮かべながらも、パクパクとご飯を食べ進めている。アルフに至っては、聞いてすらいない。

そしてプレシアからの説明に、フェイトは嬉しげな声を上げた。表情も、嬉しそうである。
以前プレシアから教わり、バレンタインデーに大好きな気持ちと共にウィンにチョコレートを贈った。

それが今日。お返事が貰えるという。なんだか、とても心がドキドキした。
視線をそっとウィンに向けてみれば、ウィンは薄っすらと頬を赤く染めている。


「ふふ。責任重大ね」

「うぅ……」


一方、フェイトにホワイトデーを教えたプレシアはウィンの耳元で告げた。
視線をウィンに向けてみれば、ブスッとした表情ながらも、どこか照れているように見える。

プレシアはそんなウィンの様子を見て、クスリと笑みを深くした。
ウィンが、憎からずフェイトを想っていることは知っている。だから、前々からフェイトをアタックさせていた。

別にプレシアは近親相姦に対して忌避感はないので、兄妹同士の結婚もありだと思っている。
フェイトもウィンに兄以上の気持ちを抱いているようなので、折角なら一緒になれと思っているのだ。


「ちゃんと、フェイトの気持ちにお返ししないと♪」

「うぅ……あれは母さんの入れ知恵でしょう?」

「でも、贈ったのはフェイトよ?」

「あぅう……」


プレシアはウキウキとウィンに告げた。まだまだ早いが、孫の顔も案外早く見られるかも知れない。
男の子だろうか。女の子だろうか。一体子供は何人産まれるのだろうか。楽しみで楽しみで仕方がない。

一方、プレシアの言葉にウィンは頬を真っ赤に染めていた。一か月前の出来事を思い出したのだろう。
一か月前のバレンタインデーに、ウィンはフェイトからチョコを受け取った。それも、「I LOVE YOU」のメッセージつき。

まだまだ小学生程度の学力のフェイトが、あの言葉の意味を正確に理解しているとは思えない。
それに、フェイトが一か月前に言っていた。ならば、プレシアは本当の言葉の意味を教えなかったのだろう。


「兄さんからの贈り物……何かなぁ?」

「あっはは。ウィン。ほんとに責任重大だね」

「あぅう……」


チラリと視線をフェイトに向ければ、心底楽しみにしているような笑みを浮かべている。
そんな表情をされては、碌な贈り物を贈れない。内心でサメザメと涙を流しながら、視線をアルフに向ける。

だが、アルフはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。どうやら、ウィンの困った顔を見れるのが楽しいらしい。
「あぅあぅ」と泣き出しそうな表情を浮かべ、ウィンはどうする事も出来ない。出来て贈り物を吟味することくらいだろうか。


「あ、それとバルディッシュの改造の目処が立ったわ」

「! 本当!?」

「えぇ。とりあえず、デザインはカイザを基本にしているわ」

「す、すごいよ母さん!」


と、ウィンが贈り物をどうしようか考えていると、そんな不審な会話が聞こえてきた。
そっと視線をフェイトとプレシアに向ければ、二人とも楽しそうにバルディッシュの改造計画を話し合っている。

少し前から見始めた仮面ライダーシリーズが影響してか。プレシアはよく改造を施していた。
最近ではカブトのキャスト・オフシステムを実行できないか計画中らしいのだが、何分人手がない。

ちなみに、以前見せてもらった計画書には、色々と凄い機能が装備されていた。
主な武装はカイザの武器。さらにキャスト・オフシステムを採用し、クロック・アップシステムの採用。

以前に一度見せてもらった計画書の内容を思い出し、ウィンは内心でダラダラと冷や汗を流す。
なんだか、見ていてとても痛々しいと感じたのだ。理由は分らない。ただ、「厨二病」と言う単語が脳裏をよぎった。
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