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□君だけの特権
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「俺、鮎沢さんのことが好きです」
今起こっていることが突然過ぎて頭が付いていかない。
えっと…私は学校内の見回りをしていて、ちょうど自分のクラスにさしかかった時にこいつの姿があって、帰らないのか聞いたらいきなり腕を掴まれてこの状態になっているんだ。
…それよりこいつは今何と言った?好き?私をか?そんなまさか
「前から一生懸命頑張ってる鮎沢さんのこと見てていいなって思ってたんです。それに不意に見せる笑った顔が可愛いっなって」
「なっ!…可愛いっ!」
どうやら聞き間違いでは無いらしい。しかも照れたように頬を染め、真剣な声色で言葉を紡ぐ様はどう見ても冗談で言っているようには見えない。
…参ったな
正直言ってこういう時どうすればいいか分からない。「好きだ」とか「可愛い」とかいう感情を向けられた経験なんてめったに無…
『鮎沢、可愛い。本当に好きだよ』
ふと浮かんだ甘い響きと見惚れるような笑顔に一気に顔に熱が集中していく。居るじゃないか1人。女らしくない私を女として扱って惜しげない愛情を注いでくれるあいつが
私は激しく高鳴り始めた胸をきゅっと握り締めた。クラスメートに言われた言葉は私をこんなにも惑わすことは出来ない。碓氷だけなんだ。私の頭の中を占領して、こんなにも幸せな気持ちを抱かせることが出来るのは…
「…鮎沢さん?」
怪訝そうに私を呼ぶ声にはっとした。考え込んでたせいで返事を何もしていなかった。ちゃんと答えないと
「あ、あのだな」
「はーい、ストップ」
突然腰に回された腕と聞き間違えるはずもないあいつの声に身体が跳ね上がった。な、何で碓氷がこんな所に居るんだよ。
混乱する私を差し置いて明らかに怒気を含んだ声が相手の男子生徒を威嚇する。
「誰の許可取って鮎沢に触ってんの?」
まだ私の腕を掴んだままだった相手の手をうっとおしそうに払いのけ、刺すような鋭い視線を向ける碓氷に目の前の男子は完全に縮みあがってしまった。
「悪いけど鮎沢は俺のなんだよね。今度こんなことしたら許さないから…分かった?」
こくこくと相手が首を縦に振るのを確認し、碓氷は私の腕を引いて教室を後にした。
何も言わずに黙って前を行く背中。その背中が口の代わりに怒っていることを私に伝える。
長い沈黙が続き行き着いた生徒会室。中に押し込まれたかと思うと、身体を囲まれ強引に唇を奪われた。
「…んんっ…や…はっ……はぁ、いきなり…っ何するんだよ」
「何って…俺以外の男に触らせたお仕置き。いつも言ってるでしょ?ちゃんと警戒しないと駄目だって」
「やっ、だってあいつはクラスメートだし。こんなことになるとは思わなくて」
「それが甘いんだよ。クラスメートだからこそ鮎沢のこと近くで見てられるんでしょ」
「…ぐっ」
「はぁー、本当に気にくわない。鮎沢のこと可愛いとか好きだとか思うのは俺だけで十分だし…こうやって頬を赤く染めるのも俺だけの特権なのに」
〜っ。何て恥ずかしい台詞を吐く奴だ。でも…恥ずかしい以上に嬉しい気持ちが溢れ出してくる。
だからなのかもしれない。私らしくもない…碓氷が喜びそうなことも言ってしまったのは
「碓氷…あの、さっきあいつに告白された時、お前の顔が思い浮かんだんだ。だからあれはあいつに言われたからじゃなくてお前のせいで…その、熱くなったんだよ。それに私も恥ずかしいこと言われるのはお前1人で十分だ。」
ちらっと碓氷の顔に目を向けると珍しく頬を染め上げていて、嬉しそうに私の身体を抱き寄せた。
「本当、可愛い。こんなに可愛い鮎沢、絶対手放してあげられないよ」
私に向けられたはにかんだ笑顔に、みるみるうちに上昇していく身体の熱
この特権はこいつ以外誰にも奪われそうもない
end
2010.3.21