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□おやすみなさい
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「寄るな、触るな、この変態!」
「美咲ちゃんってばヒド〜イ。そこまで拒否することないじゃん」
「うわぁ!だから寄るなって言ってるだろ」
部屋に新しく仲間入りした家具『ベッド』の上で俺と鮎沢は必死の攻防戦を繰り広げていた。
このベッドは個人の体型に合わせてマットレスが沈む柔らかいタイプの物だから逃げる鮎沢は足をとられ悪戦苦闘。そんな姿が可愛くて捕まえるのに時間掛けてみちゃったりして〜。
でも、もう十分楽しんだしそろそろいいかな?
「はい、捕まえた〜」
「やっ、離せ!この野郎」
「ダ〜メ。せっかく捕まえたのに離すなんて勿体無いこと俺がすると思う?」
「…うっ、思わない」
「はい、正解。いい子だから諦めて俺とおねんねしようね」
敷いている布団を捲り上げ中に潜り込もうとすると、鮎沢は俺の腕から逃れようと必死に身体をくねらせ抵抗する。
そんなことされると、大人しくさせたくなるのが俺なんだよね。
「…鮎沢、そんなに俺と寝るの嫌?」
「う、碓氷?」
わざと落ち込んだ声色を出すとビクッと肩を震わせた彼女は恐る恐る俺の方に目を向けた。
よしっ、今だ
クゥ〜〜〜ン
「〜っ。そんな捨てられた犬のような目で私を見るなよ」
ククッ。鮎沢ってば、本当にこの目に弱いんだから
「だって美咲ちゃんがいけないんだよ。俺はソファーがあるからいいって言ってるのに美咲ちゃんがせめてベッドは買えって言うから…こんなに広くて冷たい所、鮎沢がいてくれないと寂しくて寝れないよ」
甘えるように肩に頭を乗せ擦り寄ると「…分かった。一緒に寝ればいいんだろ!」と半ばヤケになった返事が返ってきた。
あ〜、可愛い。何だかんだ言って俺に甘いんだから。ベッドを買えって言ってくれたのも俺の身体のこと考えてくれたからだもんね?
そういう優しいところ本当に好きだよ
「はい、それじゃあどうぞ」
寝そべって隣を叩くと鮎沢は真っ赤な顔をしながらおずおずとベッドに身を沈めた。
細い腰に腕を回し胸元に頭を埋めると甘い匂いが漂ってすごく安心する。その甘さに酔いしれていると、ぎこちないながらも髪の毛を優しく撫でる感触がした。
もう、一体何なんだろう。この可愛い人は…
やっぱり俺は鮎沢の傍に居るのが一番心地いいよ
「…おやすみ、鮎沢」
「あぁ。おやすみ」
与えられる心地よさに身を委ね俺はゆっくり目を閉じた
end
2010.3.24