Book2

月並みのラブソング番外15
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 何度も味わった唇をなぞる。





 横倒しにされて、待ったをかけた。

 訝しげな顔が余裕をなくし、一瞬歪んで息を吐いた。堪えているときの表情が好きだ。


「まだ言葉がいるか」


 腕を引き寄せ、正面から抱き合った。こっちがいい。

 身長差できついのは理解していた。後ろから挿れて、向き合うほうが楽なのも。

 一度も前から抱かれたことはない。抱いたこともだ。

 相手の顔を確認することなんてなかった。


「構わんが――――苦しいぞ」



 首にしがみついた。苦しいのか。そうかい。

 これまでの苦しさと、どっちがマシなんだ?



 膝を折り曲げ、抱え上げられる。乳首も胸も耳の裏も臍も、どこも触らなかった。

 首から手をのけて乱れた髪を触る。完全に仰向けになると、遠く離れた。

 閉じかけていた箇所を解すように先走りをねりつけ、何も言わないで挿入ってくる。



 ゆっくり。



 うなずいて、俺の髪を撫でた。その手の平に懐く。



 頬ずりして、

 唇で噛んで、

 少し舐めて。



「猫みたいだな」


 こめかみに汗をかいて、短く息をついで。





 ゆっくりと、繋がった。





 抵抗して奥まで挿入らない。腹の上で押し潰されたモノを握られ、背中を逸らすと手がまわってくる。

 抱き合うまではいかない。女なら、あるいは体がもう少し柔らかく小さければ。

 背筋を撫で下ろす指の感触に、息をついた。奥まで進む。張り詰めて熱いものが。





 すべて。俺のものだ。





「君の中は、狭いな」


 なんだ。もう冷静じゃないか。男はみんなそうだ。女だって。

 穴に落ちたアリスのように、細ければよかったな。

 ちゃんと大きなものを持っているから、油断ならない。



 目を開けると、いつもの皮肉な笑みはなかった。



「あ」
「揺らすな……っ」


 小刻みに快楽を貪ろうとした俺の腰を掴んで、ごくりと唾を飲み込む。

 感じている。俺ほどじゃないだろうが。


「つら、い?」
「聞くな」


 腹筋が上下する。そろそろ弛んでくるかな、と脇腹を触った。

 玉の汗が頬に落ちて舌先で拾う。


「よせ」


 横を向いたら、髪で隠れて見えない。いやだ、と呟いた。


「こっち向いて」
「――――後にしろ」


 何が後だよ。もう遅い。こっち向けよ。

 あんたの目が見たい。

 普段は眼鏡に隠れて、どこを見てるかなんて知らなかった。

 見せろよ。


「俺も、好き」



 ずっとだ。

 あんたより、ずっとだ。



 馬鹿な猫だけど、他の言葉を知らないけど、言わせて。

 涙であんたの顔が掠れて、見えなくなる前に、言わせて。


「ずっと」





 愛してる。これからも、ずっと。





 顔が見えた。

 いつもより幼いような顔が。

 見開かれた目が俺を見て、切なげに眉が寄った。

 たぶん、俺も同じような顔をしてるんだろう。

 俺の、負けだ。





「…………ッ」
「あッ」


 ぎりぎりまで抜かれた途端、体がつられた。動きに合わせて跳ね上がる。

 少し射精したのだから待ってくれればいいのに、腹を汚したまま奥に捩りこまれた。


「ア、ああ!あッ、織田切さ」


 律動より、突き上げる強さより、俺を見る目がナカを犯す。

 挿入って、前をきつく扱いて、悦楽より暴力的で、ちっとも優しくない。



 愛してって言ったろ。

 なんなんだよ。

 欲しいとしか聞こえない。

 俺が欲しいって言えよ。



「――――ッ」
「んっ……ああ!……あっ!ああ」


 馬鹿、目を逸らせ。

 怒張が熱く燃え上がって、俺の肉を削ごうとする。掻き乱したものの中に、噴き上げる為の場所があった。


「んあっ、ああ!ア」


 前が擦れて、堪えられない。もう一度押し潰されると、体が浮いてイッた。

 奥の熱は消え失せない。喘ぎなのか嗚咽なのかわからないものが漏れる。

 また突かれて、その振動が密着している玉を弾いた。


「ア、ああ!ま……ま、だッ!」
「イって、いいぞ」


 指が逆手に俺のモノを弄る。先端に溜まった汁が溢れ、また上を向いた。

 いい加減萎えろと念じるほど、長い絶頂が起こる。きつく締めたはずなのに、男は堪えた。



 酷く震える。顎が鳴った。



 もう大丈夫だ、もう出せと思うと、どこに余力を残しているのか、細い腰のどこにそんな熱を溜めてたのか、一度も出さずにまた攻められた。

 自分の指が乳首を撫でようとすれば払う。なんだよ、俺にもやらせろよと詰ると、ほんの少し呻いた。


「俺は、いい」
「んっ。ああっ、あ……!」
「もっと、してやるから」


 待ったんだろう。もっと壊してやるから、触るなと言った。

 深く、奥まで押し進める。

 消えた言葉を掴むために、抱きつきたかった。


「あっ……ああっ!あ」


 なんだよ。時間かけたのに。

 あんなに時間をかけて、

 自分を納得させる言葉を探して、

 最後の最後でこれか。





 そんなに俺が好きなのか。





 俺のほうが好きに決まってる。

 離れたくないのは俺だって同じで、

 忘れるためにここまで来たのに。

 そんなにしがみつくなよ。





「や、アッ!」
「もっとだ」


 男に声をあげさせて面白いか。

 執拗に絡み付く腕が太股を押し広げ、何度も楔を打ち込んだ。


 果てろよ。

 終わって、眠りにつかせてくれ。


「う、アア!あっ、い、イイ」


 頭が割れそうになる。体力の限界だ。お互い若くもないんだ。馬鹿げてる。



 なのになんでこんなに嬉しいんだ?



 離せなくなるから、やめてくれ。










 最後は俺にやらせろよ。










月並みのラブソング番外16




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