オリジナル小説
□銀色の騎士物語り
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すると、ふと見上げる俺を見て湖の主はフワッと目の前に降りてきた。そして、また視線を少女に向けて口を開いた。
「あの少女は力が弱い、今の我を見る事は出来ぬさ、それに…じき、我は消えていく−…かつての湖と供に…」
この主の言葉は真実だろう、体は胸の辺りから光を通した様に薄い、姿を保つ力が弱くなっているせいだ。
「消えてゆくなら…最後まで、あの少女の唄を聞いていたい−…もう我に逢いに来てくれるのは、あの少女だけだから…」
この主の様に土地から産まれた精霊達は信じる者がいなければ、生きられない。その場を離れれば生きながらえる事もあるけれど、精霊の大半は場を離れようとはしない。
こんなに……強く、綺麗な生き物が魔物である筈がないのに、町の結界も主が力を与えていたんだろうに。
言葉を交わさぬまま、静かに唄を聞いていた中、ゴオォと、突然風が凪いだ。
(何か来る!?)
「私の護りが弱くなっているからな、人がいる所に魔物は現れる」
あの子を傷付けさせはしない…。
「キャアァ−!」
悲鳴のする方に視線を移すと少女の前には黒い闇の塊がうごめいていた。『魔物』だ、少女の弱いながらも巫女の力に引き寄せられたのか。
俺が、腰に掛けた剣に手を伸ばすと主が製した。
「後を−…、銀の鳥よ」
主は風の様に素早く闇の塊に向かって走った。
両腕を広げると、僅かな泉の水が生き物の様に動きだし主の周りに輪を作った。
『ありがとう−…』
恐怖で気を失ってしまった少女に囁くと、主は闇の塊に向けて圧縮した水の輪を放つ、それはまるで嵐の様に回転し風をうみだしながら塊を攻撃した。
「グオオォ−!!」
竜巻の様に巻き上げられた水に、魔物は耳に重い唸り声を上げて塊は徐々に小さくなっていった。
決着は呆気なく決まった。闇の塊がグネグネともがいて霧の様に消えた。
聖水と同じで少女の祈りの篭った水は主に力を与えていたのかもしれない。
「汝に、我が守護を…」
「いけない!!」