オリジナル小説
□銀色の騎士物語り
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『フライ…』
あぁ…誰かが呼んでる、でもここは風が気持ちよくて、もう少しだけ…。
「フライ!起きなさい!」
ズルッと身体が揺れたと思っていたら次に来たのは衝撃と若い少女の声だった。
「………」
暫く沈黙が続いた、頬を撫でる様な暖かな風が吹いた時、まだ虚ろな顔をした俺を、心配そうに覗き込む少女が声をかけてきた。
「ご、ごめんなさい!私が大声で呼んだりしたから…フライ?」
「痛い、気がする…」
俺がそう言うと、少女は心配そうな顔から、呆れた顔にも怒った顔にも見える顔になっていた。
「痛くて当たり前です!木の上から落ちたんですから!?まさか、落ちるとは思わなくて…」
最初の勢いは徐々になくなり、また悲しい顔になっていく−…。
「平気、ケガもしていないし、おかげで眼が醒めたよ」
俺がそう言うと少女は小さく微笑んでくれた。
少女の名はユーリ、深い森の色をしたくせっ毛の長い髪がとても綺麗な、土色の眼をした15、6才の女の子だ。その顔は白くて太陽を浴びて少し薔薇色に染まっている。小さなふっくらした唇は、閉じる事なく俺に喋りかける。
「フライったら!ちゃんと聞いてるの?」
「聞いているよ、ユーリの声は通りが良くて気持ちがいいから」
ユーリが面白い顔してる、何か可笑しい事を言っただろうか?
「もう!」
互いに笑いながら、森を歩く、いつまでこうしていられるだろうか…?
君は、俺を赦してくれるだろうか…?
ユーリが暮らす村に来てから、10日が過ぎて毎日がとても早く過ぎて行く…。
君は…
ずっとそのままでいられるのだろうか…?
この村を…失う時が来てしったとしても。
泣くだろうか?それとも怒るだろうか?
外から聞こえてくる闇の足音、少しづつ近付いている 『−−−−−』
「フライ!また聞いてない!?」
ユーリが怒ってる?
「やっぱり痛む?」
言いながら俺の身体を見詰めている。
「痛くはない…今日は村が騒がしい、俺が来ていいの?」
「もちろんよ!村長様が言って下さったのよ!」
今日は村の収穫祭で小さな村ではあるが大変な盛り上がりを見せている。路上には店が犇めき合い手作りの料理や土産品等が並んでいる。村では宝石も採れる為、装飾品が目玉になっているようだ。
「まだ村長様は来てらっしゃらないみたいね−」
「祭の準備で忙しいのかもしれないね、主催者だから−…探してみる?」
「招待されてるんだからフライはこの返で露店でも見ていて、私が見てくるから」
「ユーリ!二人で探した方が…」
言ってる間にユーリの姿は人込みへと消えてしまった。
「本当に人が多い…外からも来ているのだろうか?」
小さな町ではあるけれど周りは高く強い結界によって護られている。魔物から町を護る為、とても大切な事なのに誰も気付いていない……結界は綻んでボロボロなのに…。
たまたま、町の近くを通ったら魔物の気配がした。俺が探しているやつかもしれない、だから町に来ただけなのに。
十日前に、村の近くで魔物に襲われているユーリを助けた、その噂は小さな町で一気に知れ渡り、皆に感謝された。それはこの町に騎士隊がいないからだ。