私は誰だ?
□ヒテンミツルギ
1ページ/1ページ
かーん。かーん。
男は剣を打っていた。
刀鍛治をしていたこともあったが、今や捻くれた隠居じじいに成り下がった男である。
かーん。かーん。
真っ赤な刀身を打ち、硬さ即ち炭素の量を調整する。
鉄の質とこの作業が刀の良し悪しを決める。
かーん。かーん。
だが男は違った。
鬼のような形相で刀を打つのだ。
或いは強大なる意志に怯えた真っ青な顔で。
かーん。かーん。
きりりと真一文字に結ばれた口。
目は大変に釣り上がり、赤く大きな鼻が顔の中央部を占有している。
かーん。かーん。
男は元来から人間離れした、所謂強面という感じの顔をしていた。
やがて歳を取り、皺を刻み、老いぼれるにつれてそれは顕著になった。
かーん。かーん。
白く抜け落ちた髪。
刀鍛治で黒ずんだ八重歯。
かーん。かーん。
男は何の為に刀を打っているのか。
知る者はいない。