私は誰だ?

□流浪と猫とリンドヴルム
1ページ/2ページ

にゃあ、と猫が啼く。



お腹が空いたのかい?と聞けば、もの珍しそうな目でこちらを覗いた。


またそのうち目を細めてそっぽを向いてしまったので、そのまさかさ。と言ってやった。



猫は聞いてか聞かぬか、ひょい、と塀に一跳びして去ろうとした。


あいや、待たれよ。



と、猫が目を丸くしてそちらを見るには、上品な味わいであろうささみが差し出されていた。



土産にもひとつ、噺など如何かな。



にゃあ。



やがて男はその場に風呂敷を敷くと、そそくさと影に入っていった。


いやはや、これはまた妙なやつが来たもんだと、彼は思った。



ちゃん、ちゃん、よい、とな。



妙なやつは、また妙な出囃子もどきを口ずさんで、ずいぶんと低い舞台にちょこんと坐った。



噺ってえのも、まあ色々とござんしょうが、これまた猫にする噺ってえのは、格別に見当たらないものでしてね。


見当たらないと言やあ、それそんな奇特なやつがいたもんかと、そいつも言われたもんだからつい逆上せちまって、そうとなりゃ、それ、こっちにも意地があるってもんだ。


そんなこんなで、奇特な男が生まれちまったんだが、なにぶんお付き合い頂ける猫がないってんで、そこいらを歩き回ってると、やっ、と風呂敷を敷いて、そこに据わり込んじまうのよ―――
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ