私は誰だ?
□流浪と猫とリンドヴルム
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にゃあ、と猫が啼く。
お腹が空いたのかい?と聞けば、もの珍しそうな目でこちらを覗いた。
またそのうち目を細めてそっぽを向いてしまったので、そのまさかさ。と言ってやった。
猫は聞いてか聞かぬか、ひょい、と塀に一跳びして去ろうとした。
あいや、待たれよ。
と、猫が目を丸くしてそちらを見るには、上品な味わいであろうささみが差し出されていた。
土産にもひとつ、噺など如何かな。
にゃあ。
やがて男はその場に風呂敷を敷くと、そそくさと影に入っていった。
いやはや、これはまた妙なやつが来たもんだと、彼は思った。
ちゃん、ちゃん、よい、とな。
妙なやつは、また妙な出囃子もどきを口ずさんで、ずいぶんと低い舞台にちょこんと坐った。
噺ってえのも、まあ色々とござんしょうが、これまた猫にする噺ってえのは、格別に見当たらないものでしてね。
見当たらないと言やあ、それそんな奇特なやつがいたもんかと、そいつも言われたもんだからつい逆上せちまって、そうとなりゃ、それ、こっちにも意地があるってもんだ。
そんなこんなで、奇特な男が生まれちまったんだが、なにぶんお付き合い頂ける猫がないってんで、そこいらを歩き回ってると、やっ、と風呂敷を敷いて、そこに据わり込んじまうのよ―――