私は誰だ?

□破滅
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彼は一人だ。

彼は友を持たない。

彼の周りにはもう誰一人居ない。


ある日、彼の元にそれは現れた。

彼は驚愕し、訊いた。

日が沈むとそれは答えた。

「我は大いなる力である」

また、こう続けた。

「我を求め、喚び起こせ」


一瞬戸惑い、彼はそれを欲した。

快くそれは彼に与えた。

すると彼は更に欲した。

それは求められるままを与えた。

彼は快楽に溺れていった。


いつしか景色は崩れ、平穏は狂気に呑まれていった。

彼は街を潰した。

彼は山を砕いた。

彼は国を滅した。


最後の国が滅びた時、一人の少女が彼に言った。

「破壊は創造で有り得ない」

だが彼は既に理解をしなかった。

彼は少女に牙を剥いた。

銀の雫は弾け、紅が飛び散った。


やがて彼は思い出した。

彼は訊いた。

「何故与えたのか」

間もなく、それは答えた。

「君が望んだに過ぎない」

そして言った。

「君は求め過ぎた」

彼は更に訊いたが、それは跡形も無くなっていた。

彼は全てを失った。

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