私は誰だ?
□私は誰だ?
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注意深くその側面のスイッチと思しきつまみをスライドさせると、ノイズに雑じって声が聞こえた。
「――聞こえますか?聞こえたら応答して下さい」
思わず身を縮こめて、端末を顔に近付けて小声で応える。
「私だ」
相手の声は若い女性のそれらしい。
「お待ちしておりました」
目は周りを見ている。
「状況は?」
左にアルミ製らしい棚。何かが等間隔に置かれている。
「囲まれています」
大型の機械類。奥に灰色の壁。天井近くに窓。
「それは分かっている」
右にドラム缶。隙間から正面のものよりは小型の機械。奥に赤茶の扉。
「ならば成すべき事は一つかと」
窓が小さいせいか、この中は随分と暗い。
「君は何をしてくれる?」
所々に同型のライフル銃が置かれている。ここは軍需工場だろうか。
「何なりと」
何故か、心の中で笑った。
「代償は高いか、全く」
端末のスイッチをスライドさせ、コートの右ポケットにねじ込んだ。