V
□贅沢死
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気分が悪いから、横になる。
端から見たら、ただそれだけの行為に違いない。体調が優れなくて休むと言うのは、誰しもが取る然るべき行動なのだ。
だが今の私には重大な意味を持つ。
「………さようなら、皆さん」
寝たら最後。否、最期。
昏々と眠り、死の旅へと向かうのだ。
それを決意させるほど、参っていた。
無論今まではそれを恐れていて、もう何日も眠っていなかった。
しかし、限界はあっという間に私の手を掴む、足を引っ張る。
不眠は気力と体力の消耗に、拍車をかけるのだ。
きっと、誰にも気付かれずに私はここで眠り続ける。
ミイラになった頃、不意に遠方の友人なんかが来て、変わり果てた醜い私を発見するのだろう。
「……遺書、書いておこうかしら。『これは私です』」
もしかして私だと気付かれなかったら、悲しすぎる。
ああでも、ベッドへと向かう手足が止まらない。
その柔らかな感触を、肌触りを、体が欲している。