V

□贅沢死
1ページ/9ページ

 
 気分が悪いから、横になる。



 端から見たら、ただそれだけの行為に違いない。体調が優れなくて休むと言うのは、誰しもが取る然るべき行動なのだ。


 だが今の私には重大な意味を持つ。






「………さようなら、皆さん」


 寝たら最後。否、最期。


 昏々と眠り、死の旅へと向かうのだ。



 それを決意させるほど、参っていた。


 無論今まではそれを恐れていて、もう何日も眠っていなかった。
 しかし、限界はあっという間に私の手を掴む、足を引っ張る。

 不眠は気力と体力の消耗に、拍車をかけるのだ。









 きっと、誰にも気付かれずに私はここで眠り続ける。


 ミイラになった頃、不意に遠方の友人なんかが来て、変わり果てた醜い私を発見するのだろう。



「……遺書、書いておこうかしら。『これは私です』」


 もしかして私だと気付かれなかったら、悲しすぎる。



 ああでも、ベッドへと向かう手足が止まらない。

 その柔らかな感触を、肌触りを、体が欲している。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ