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□底辺
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それは美しい人だった。
僕はいつも遠くから彼女の姿を見つめるだけで精一杯だった。
あまりじろじろ見てると君に気づかれるかもしれないから、僕は出来るだけ彼女の姿を後ろから見るようにした。
そんな僕に周囲の友人はからかってばかりだった。
わざと僕を彼女の前に突き飛ばしたり、大声で彼女を呼んで僕のせいにしようとしたり。
ああ、きっと嫌われてる。
僕は段々欝になっていった。
彼女を想うことすら止めようと思った。
だって、このまま見つめ続けても、片思いで終わるのは目に見えてる。
それから数日、彼女の姿を見つけても目を逸らして追わないようにした。
案の定、友人達は訝しげに尋ねてきたりしたけれど、僕は「諦めたんだ」とそっけないフリをした。友人達はつまらなさそうに口を尖らせたが、やがてそんなことはすっかり忘れていった。
その内に僕自身も彼女を見ることに慣れてきて、あの時の気持ちすら忘れた様な気になっていった。
きっと、恋ってそういうものなんだ。
熱が冷めてしまえば、きっと後で笑い話になるくらいあっけないもの。
好きな気持ちがなくなったからと言って、今更彼女と仲良くなろうとする気にもなれなかった。
ほら、やっぱり片思いで終わったんだ。
年が明け、学年が一つ上になってからも、僕は彼女を見なかった。
それどころか順調に学生生活を満喫していた。
友人とふざけ合ったり、試験前には頭を抱えて机に向かったり、ホグズミートでの買い物を愉しみに待ったり、長い休みには実家に帰って学校であったことを両親に話したり。
とても順調だった。