V
□贅沢死
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布団に手を掛けると、意識はますます朦朧としてくる。
ぼやけた思考は死に対しての恐怖すら、凌駕してしまう。
もしかしたら、再び目を覚ます事も容易ではないかと思う程。
そんな筈はないのだと、自分自身がよく解っているのに。
横たわって、静かに瞼を閉じた。
いつぶりになるだろうか、暗闇は私を優しく包んで眠りを誘い、引導を渡してくれる。
『さようなら、皆さん』
心の中でそう呟いて、呼吸をひとつした。
こんなに安らかな死を迎えられる私は、きっと幸せ者に違いない。
───と、思ったのに。
暖炉から、何か爆発したような音がして、呆気なく意識を取り戻した。
「なに?」
咄嗟に半身起こして、暖炉を見やった。
煤がもうもうと舞い、その中から人影らしきものが横たわっている。
私は呆然と、煤だらけのそれを見ていた。