V

□贅沢死
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 げほげほと影の人は噎せながら、足下がおぼつかない様子で立ち上がった。


「………誰?」

 薄れる煙の中、その人はやがて姿を現した。


「えっ?」


 これでもかと言う程、その人は目を丸くして突っ立っていた。何せ顔が煤だらけなものだから、開かれた眼は異様な程目立っている。


「誰だと聞いてるのよ」

 折角人が安らかに死のうとした機会を、土足以上に邪魔をされてしまった。
 どうやら、私より二つ三つ若い男らしい。華奢な肩で、ローブはずり落ちている。背丈も頭一つ高そうだが、まだ成長課程という所か。

 恐らくは、まだ学生なのだろう。

 よくよく見て、着衣しているものが制服だと気付いたのは、だいぶ後になっての事だ。
 それほど彼は煤だらけの泥だらけ。煙突から真っ逆様に墜ちて来たのかと、問いたくなる程だ。





「場所…………間違えたのね」

「………はい」


 項垂れた灰色の肌の下から、僅かに赤みが差した。


 
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