V
□贅沢死
3ページ/9ページ
げほげほと影の人は噎せながら、足下がおぼつかない様子で立ち上がった。
「………誰?」
薄れる煙の中、その人はやがて姿を現した。
「えっ?」
これでもかと言う程、その人は目を丸くして突っ立っていた。何せ顔が煤だらけなものだから、開かれた眼は異様な程目立っている。
「誰だと聞いてるのよ」
折角人が安らかに死のうとした機会を、土足以上に邪魔をされてしまった。
どうやら、私より二つ三つ若い男らしい。華奢な肩で、ローブはずり落ちている。背丈も頭一つ高そうだが、まだ成長課程という所か。
恐らくは、まだ学生なのだろう。
よくよく見て、着衣しているものが制服だと気付いたのは、だいぶ後になっての事だ。
それほど彼は煤だらけの泥だらけ。煙突から真っ逆様に墜ちて来たのかと、問いたくなる程だ。
「場所…………間違えたのね」
「………はい」
項垂れた灰色の肌の下から、僅かに赤みが差した。