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□黒い爪
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「ねえ、似合わないよその爪」
背後から突如現れた顔に、私は反射的に飛び退いた。
そんな私の反応を見て、ケラケラと指差して笑う男。
リーマス・J・ルーピン。
「止めてって言ったでしょ、そういうの」
すっかり気分を害した私は、読書中だと言わんばかりに両手で分厚い本を抱えて彼に背を向けた。
「僕だって止めて欲しいなぁ、そういうの」
馴れ馴れしく私の手を握り、物珍しそうに黒く塗り上げた爪を眺めた。
「似合わないと思うよ、君には」
「何色を塗ろうが私の勝手じゃないの」
「だからって、黒は・・・」
眉根を寄せる彼の手を軽く払い、栞を挟んで本を閉じた。
この男は何かにつけて私の周りをうろうろと徘徊し、特に用も無いくせに構ってくるのだ。
『一体アンタは私の何だと言うの』
声に出さず、唇だけでそう呟いた。
「え?何か言った?」
声に出していない筈なのに、何故そんなに耳聡いんだと、ますます気に障った。
「僕、人より耳がいいからね」
嘘っぽく笑う彼の顔が小憎らしい。
「ねえ、どうしてそんな爪にしたの」
「女のコならもっと明るい色にしたほうがいいよ」
「ほら、今度ホグズミートでさ、君に似合うマニキュアを捜してきてあげるよ!」
しつこい。