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□黒衣の騎士
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ある日の日暮れ。
窓の外から、馬の蹄の音が聞こえた。家のすぐ側でその馬は鼻を鳴らし、地団駄を踏む。
誰かが鞍から降り立ち庭に植わる林檎の樹に馬を繋いだ。
表に出ると、黒馬の傍らに立つ、黒い姿。威厳を示すような髭を蓄え、自信に満ち溢れた笑みを浮かべていた。
「ジョージ……珍しいじゃない」
今まで皿洗いをしていた手をエプロンで拭うと、その男は眉を顰める。
「家事なんか、家政婦にさせろ」
「ウチにはそんな人いないわ。忘れたの?」
やれやれと首を振り、彼は辺りを見回した。
「壁がひび割れている。嵐がきたら、こんなボロ屋すぐに吹き飛ぶな」
皮肉に笑い、彼は家の外壁をわざと拳で叩く。やめなさいよと止める私を、器用にマントを翻して回避した。
「誰かが私達の暮らしを締め上げてるせいで、大工も呼べないのよ」
厳つく黒光りする鎧を小突いてやると、彼はふんと開き直って胸を張った。
「私は身体一つで貴様等の生活の面倒を見ているのだ。奴隷にされないだけマシと思え」
「ノッティンガム公の名が聞いて呆れるわ」
ただの暴君じゃない、と付け加えると、眼光鋭く睨まれた。