Novel〜短編〜

□・・・みたい
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その時、小さな音がして誰かが職員室に入って来た。

「失礼しま〜す…」

入ってきた奴の顔を見て

俺は知らず知らずのうちに体を強張らせる。


背中の真ん中あたりまでのばした髪をひらめかせ、

彼女は俺の前で立ち止まった。

こげ茶の瞳が蛍光灯の光りに照らされて輝く。


ヤバい…心臓が爆発しそうだ…。


手に汗を握りながら動揺を必死に押し殺している俺に彼女の視線が向けられる。


「あの…」


小さな体と同様に小さい彼女の唇が動く。


俺の心臓はさっきから超高速ビートを刻みっぱなしだ。

緊張を高まらせながら俺は顔を無理やり無表情にして彼女の方を見る。


そして一瞬で深呼吸を済ませ口を開いた。

『なにかよ――――』


「あの服部先生」

「おぉ、何だ小川」

思わず椅子から滑り落ちそうになった。

っていうか内心本気で滑った。


よりによってこいつに用?!

俺の高速ビート意味ないじゃん!


きっと今ので五年ぐらい寿命縮まったって、マジで!!


「すみません、作文忘れちゃって…

明日提出じゃだめですか?」


「おいおい、絶対忘れんなって言っといただろ〜?

お前、家近所だったな。放課後取りに行ってこい」

「わかりました…」

「今度は忘れんなよ」


ぴらぴらと軽く手を振って陽人が彼女を見送る。




憎い…。めちゃめちゃ憎い…。

今年俺に降りかかるだろう災厄を全部押し付けてやりたい。


    
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