椿と灰 第一章

□2 続・夏
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近くにあったファミリーレストランには行って学生はアイスコーヒー、俺はアイスティー椿はカルピスソーダを頼んだ。俺はうつむいている学生に言う。
「お前名前は?」
「中上史希(なかがみしき)」
「年は?」
「中学二年生、14才」
「わあー、中2病だ」
「お前は黙ってろ」
 中2と言う言葉に反応した椿に黙るように言った。シキはうつむいたまま悲しげな表情をしていた。俺は話を進めたかったので、シキの表情に目をそらした。
「で、何で万引きするはめになった?」
「前からいじめられてて、それで…万引きしろって………しないともっとひどいことすって…………僕もうイヤだ…。綾には心配させたくないし、先生は無視だし…クラスの奴らなんかいないも一緒…………」
 そのとき、俺はさっきまでの違和感の理由が分かった。
「腕、見せてみろ」
 シキは言うとおりにした。やっぱりと俺は思った。こんな真夏に長袖シャツを着るなんておかしい。でも、シキは隠してたんだ。前に見た松木の腕にもあった、たくさんの根性焼きの跡を。
「いじめっこは何人くらい?」
 椿は興味を示したかのように言った。
「五人くらいでリーダーが一人いる」
「誰?名前は?」
「柳田係人(やなぎだけいと)」
「毛糸?」
「関係の『係』に『人』です」
 変な名前だなと思った。俺は隣にいるカルピスソーダをストローでぶくぶくしている男を見た。こいつも十分変だ。名字以外も。
「わかった」
 俺は立ち上がった。
「もう、万引きはするなよ」
 行くぞ椿、と言って財布を手に取り俺の分のアイスティーとシキの分のアイスコーヒーの金を財布から出した。まぁ、中学生に払えって言うのもな。あとは椿が自分の分を出せばいいのだが、
「俺、金ないよ」
 結局、全部俺が払うことになった。

「いつものお人好しはどうしたの?」
 ファミレスから出て椿に聞かれた。
「別に俺はお人好しじゃないからだ」
「お人好しだよ。さっきだって全員分おごったじゃん」
「お前なぁ」
「ないもんはしょうがないよ。大丈夫だって返すから、いつか」
「払う気ないだろ」
「うん」
 椿の言葉にいらつきを感じた。俺は考えて
「分かった」
 と言った。椿は何のことか分からなかったらしく
「何が?」
 と聞いてきた。俺は答える。
「一週間で5割の利子をつける。さっきのが300円だから来週の月曜日までに300円払わなかったら450円になるぞ。その後も払わなかったらどんどん増えるからな」
「やめてよ、お金ないんだから」
 椿はいつもの口調で言った。多分、一生払わないだろう。
 少し歩いて椿がタバコを吸い始めた。そんな椿を見て、そういえばと思った。
「お前、家どこだ?」
 椿が一瞬こっちを見た。俺はこいつの家の場所を知らない。どこら辺に住んでいるかさえ。いつも帰るのは一緒だが、俺が何か用があったり、いつも駅で別れるからだ。
「今日、お前の家まで行こうかな」
「良いけど部屋には入らないでね」
「なんで?」
「汚いから」
 椿はそれだけ言うと口を閉ざしてしまった。

 いつも別れる駅についた。いつもの俺は電車に乗って帰るが今日は椿について行く。椿は改札を無視してまっすぐ歩く。目の前に見えてきたのは駐車場だった。そして、そのまま一つの車の前で椿は止まった。小さな白い車だった。椿はタバコの火を消してコンクリートに捨てた。
「お前、免許もってんのか?」
「うん、高校卒業してすぐ」
「この車は?」
「買った」
 そんな金があるなら300円くらい返せよ。椿は車のドアを開けて鍵をさす。エンジンが入る音がした。俺は助手席に座る。車はゆっくり動き出した。窓から外を見る。6時前後なのに外はまだまだ明るかった。車はどんどん進む。ふと、椿を見るとタバコを手にしていた。
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