椿と灰 第一章

□7 真冬
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俺は言い終わって息を整える。一気に言ったせいか息が上がってしまった。
「灰田」
「なんだ」
 椿は相も変わらず崩れたケーキを箸に挟んでいった。
「俺さあ、いつ死んでも別に良いかなぁって思ってた。でも、灰田がそこまで言うならもうすこし生きても良いかなぁって今思った」
「もう少しじゃねぇよ。孫が出来るまでは生きろ」
 俺が冗談交じりに言うと椿は笑った。
「はは、多分嫁すら出来ないと思うよ」
「だったら、俺がいい女紹介してやる」
 正直言うと椿が女性と付き合うなんて気色悪いモノは見たくなかったが、そのときだけは椿の姿が普通の大学生に見えた。
 その姿があいつの影と重なって胸がじくりと痛んだ。

 今年のクリスマスは椿の入院している部屋で朝野を誘ってケーキを食べた。特に何もなかったが普通に楽しかった。椿の怪我は一応全治半年で入院期間は一ヶ月半であった。その入院費や椿の怪我のいろいろな費用は俺ではなく、優奈さんが払ってくれた。当たり前といえば当たり前なのだが、少し後ろめたかった。優奈さんは泣きながら一度だけ病院に来た。そして、本当に申し訳ないというように椿に謝った。椿は何でもないように聞いて、何も特に言わなかった。俺はその場にいなかったが優奈さんから聞いた。椿のその姿を想像するのは簡単なことだった。

 年が明けた。特に何もしなかったし一人だった。それに俺は大学から出された宿題をやらなくてはならない。冬休み前に提出しなければならなかったレポートを椿のせいで出来なかったので宿題くらいはやらなくてはいけない。本気で単位がヤバイ。同じ理由で成人式にも出られそうにない

 年が明けて三日くらいがたった。俺は餅を持って家を出た。もうあと300メートルくらいで病院と言うところである人と出会った。
「あけましておめでとうございます、月本さん」
「あ、おめでとう。久しぶり」
 3人の人に囲まれながら月本さんはにっこりと言った。月本さんは前と同じようにスーツをぴっちり着込んでいた。
「あれ? いつもの友達は一緒じゃないの?」
「はい、ちょっと入院していて、今から病院に行くところです」
 月本さんは俺の言葉を聞き終えると、思い出したかのように
「あー、そうか。そうだったね。お腹大丈夫?」
 俺は何で知っているのか気になったが怖くて聞けなかった。
「多分大丈夫ですよ。昨日も隠れてタバコ吸ってたし」
「それは大丈夫なの?」
「椿の回復には驚かされます。あいつバケモノですよ」
 月本さんはフフッと笑って俺の肩に手を乗せた。
「まぁ、がんばってね」
 俺は「はあ」だけ言った。月本さん果てを話し部下達をつれてどこかに消えてしまった。

「よく毎日来るね」
「どうせ、暇だしな」
 俺は餅をテーブルに置き、ベット近くのイスに腰をかけた。ゴミ箱にビニールを捨てようとしてあることに気がついた。
「お前またタバコ吸っただろ?」
「だって口が寂しいんだもん」
 まるで子供のようだ。
「お腹はもう痛くないのか?」
「うーん………微妙」
 俺はお腹をさする椿を見ながら、
「お前どっか体おかしいんじゃないか?」
「え、なんで?」
 全治半年の怪我をたった3週間足らずでここまで回復するのか? 俺はあきれて餅の箱を開けた。椿は嬉しそうに割り箸を取り出した。
 俺は前から椿に言いたかったことを言う。
「椿、俺にはもう関わるな」
「いきなり、何?」
 椿は餅をのばして口に入れる。俺の真剣さが伝わらなかったらしい。
「もう、見舞いにはこないし。その私物もうやる。大学に復帰しても近づくな……今日で終わりにしよう」
「できない」
 椿の返答はすぐに帰ってきた。今度は真面目に答えた。俺は頭を抱えてこういった。
「俺といると………不幸になる」
「何いってんの? 灰田の方がおかしいんじゃない?」
 俺はそのことについては無視をした。
「椿、栄田伸也(さかえだしんや)って覚えてるか?」
「…………………………………………………………うん」
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