椿と灰 第一章

□3 秋−冬
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夏休みは大量の課題を片づけることばかり目にいって何もせず終わった。強いて言うなら、海に行ったことと実家に帰ったことしかない。しかも、課題は全て終わらなかった。本当に今年の夏休みは無駄だった。しかし、10月ともなれば残暑もなくなり比較的穏やかな日々だった。周りの奴らのほとんどは長袖に替わってしまっている。もちろん、俺も。そして、椿もだった。
 そんなとき、俺のところに一人の見知らぬ男が俺に声をかけてきた。
「灰田さんですよね?俺、4年の三平っていいます」
 三平という男はとりあえず金属だから毛だった。首にはドクロのシルバーアクセサリーをつけていて指には5本の内4本にシルバーリングが着いていた。耳にはピアスだった。三平は俺の視線には気づかず話を続ける。
「灰田さんの話は聞いてます。DV彼氏と別れさせたとか、中学生のイジメを解決したとか」
「はあ…………どうも」
 俺は適当に返事をした。すると、三平は俺の肩をつかんだ。
「そこで、お願いです!」
「はい?」
 俺は驚いてその言葉しかでなかった。三平はそんな俺にはお構いなしに言う。
「僕の彼女を観察して欲しいんです!」
「どうしてですか?」
「絶対、浮気してると思うんです。携帯にメールしても返事来ないし、話しかけても2言3言で会話止まるし、全然あってくれないし」
 お前は女かと言いたくなるような男だな。
「悪いですが、俺にも授業があるので」
 俺は三平のお願いを断った。しかし、三平は下がらない。
「放課後2〜3時間と昼休みだけで良いですから」
「だめです」
「お礼に五万円差しあげますから」
 思わず口を止めてしまった。俺は三平の方を見る。
「ね?」
 三平の目は真剣そのものだった。

「お人好し。それと、金に目がくらみすぎ」
「だよなぁ」
 椿の言葉に反論できない自分を情けなく思った。
「で、その彼女は?」
 俺は思い出しながら三平から聞いた情報を言う。
「名前は朝野琴乃。4年生」
 俺の口が止まると、椿は俺を見て
「あとは?」
 と聞いてきた。俺はポケットから小さな写真をとりだした。
「あと、写真」
 俺は椿に渡した。椿はしばらくじーっと見て「はい」と俺に返した。
「美人だね」
「ああ」
 俺は椿に同意した。朝野はとても綺麗な女性だった。そこらへんにいのアイドルよりずっと美人である。
 放課後いつもより早く教室に出て大学の門の前で待っていた。もちろん、隣にはタバコを吸っている椿がいた。俺は写真を見ながら出て行く人間を見る。
 10分くらい待つと門から一人の綺麗な女性が出てきた。俺はとっさに写真を見る。朝野琴乃だ! 俺は椿の肩をつついて合図をした。俺と椿は自然に彼女の後ろを追った。朝野は写真で見るよりずっときれいな女性だった。髪はストレートで長く、体もすらっとしていてスタイルがすごく良かった。白いワンピースに薄い黄色のカーディガンがとてもよく似合っている。そして、肩にはトートバックをかけている。俺は少し見とれそうになった、朝野はスタスタと歩いていた。
 しばらくして朝野はレンタルビデオ屋に入った。俺達2人も入った。中には最近の映画や洋画など様々であったが、朝野はまっすぐ日本のドラマのコーナーに行った。俺は少し離れたアニメのコーナーから観察していた。彼女は迷うことなく二つのDVDを取り出すとレジに向かった。俺も動こうとした。だが、あることに気がつく。椿がいない。とりあえず、周りを見る。どこにもいない。俺は少し歩いて洋画のコーナーの行く。いた。椿は映画のパッケージをじーっと見ていた。俺はズカズカ歩き椿の襟首をつかむ。
「何?」
「追うぞ」
「ええ、ちょっと待ってよ」
「待てない。一人でまた来い」
「面倒くさい」
「とりあえず、今は無理だ」
 俺は強制的に椿と店を出た。右と左を見る。朝野はいなかった。見失った。そう思ったとき、
「あなた達、何?」
 腕を組んだ朝野に聞かれた。俺はとまどい何も言えなかった。
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