椿と灰 第一章

□4 冬−T
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12月に入った。夏の暑さはどこに行ったのか、と言うくらい寒くなってきた。大学に行く道のりを歩いただけで手は冷水のように冷たくなる。風邪は服の隙間から通り抜けるので、なかなか暖まることができない。
「女子ってさー、なんでこんな寒いのに薄着なんだろうね」
 今は昼休みのため、食堂で昼食を食っている。この言葉はそのときに椿から発せられたものだ。
「そうだな」
 俺は同意した。確かに女子は『キャー、さむーい』と言うくせに、短パンにタイツというこっちが寒くなるような格好をする。なんでだろうな、まったく。
 そういうえば困ったことがある。ここ半年……つまり椿と出会ってからだが、俺が何かの依頼を受けて、それを解決するごとに裏ではオレらの名前が広がっているらしい。そのせいで、時々まったく知らない人間から依頼を受ける。そのたびに「俺は何でも屋じゃない」と言うのが面倒くさくなってきた。依頼するんなら俺じゃなくて椿にしろ!
「俺より灰田の方がいい人に見えるんだよ」
「褒めてねーよ」
「いいじゃん、モテ期だよ」
 それはない。俺はご飯をひとかたまり口に入れた。俺の知名度と共に椿のファンが増えている気がする。最近では椿を隠し撮りしている女子もいるみたいだしな。
「何のこと?」
「気づいてるのにとぼけるな」
「はは、灰田は隠し撮りされたいの?」
「ちがう! そういうことじゃなくて」
「遠慮すんなって〜、俺が台所からトイレまで」
「黙れ!」
 椿は笑って「冗談だって」と言った。冗談でもお前はやりそうだから怖いんだ。俺がそんなことを思っていると、目の前にある人物が俺の前を通ろうとする。
「あ」
 椿がその人物に気づき、声をもらす。その人物はその声に気づき俺達の方に向く。
「よう」
 俺はその人物と目があったのであいさつする。その人物とは朝野である。
「朝野さんはどこ行くの?」
 椿が俺の横から言う。朝野は体をこっちに向け、
「これからバイト」
 いつもの無愛想で言った。大学では1,2年の時真面目に単位を取っていると3,4年になったとき、単位に余裕が出来るのだ。そのため4年生の人たちは暇になる人がでる。朝野もそのうちの1人だろう。
「就職活動も終わったからね」
「どこになったんだ?」
 俺は気になって訪ねてみた。朝野は椿を一回見てから、
「普通の会社に勤めることになったわ」
「どんな会社?」
「出版関係」
 朝野は短く答えると、何も言わずバイトに行ってしまった。椿はそんな朝野の姿を5秒くらい見ると、俺の方を見てきた。
「灰田さぁー、単位大丈夫?」
 俺はその言葉に詰まった。実際のところ全然大丈夫じゃない。授業にはちゃんとでているが、課題がダメだ。夏休みはすべて終わらなかったし、この前のレポートは朝野のことで出来なかった。しかも、テストのほとんどが悪かった。多分、このままでは単位をいくつも落としてしまうだろう。
「まぁ…………なんとかなるだろう…多分」
 俺は考えた結果、微妙に濁していった。椿はニヤニヤしていて、正直うざかった。

「椿君…、あの…………その……」
 今、俺の目の前には可愛いらしい一年生が耳を赤くしながら椿に一生懸命何かを伝えようとしている。ここは校門前である。俺と椿がいつものように大学を出ようとすると、彼女がいたのだ。何だ、椿のファンか? だったら俺のいないところでやれよ。椿にはもったいないくらい可愛いらしい女の子だ。髪はショートのボブで、少し茶色で多分染めている。その上、身長が小さい。見た感じは150〜155pくらいである。こんな可愛いらしい女の子がなぜ椿に惚れるのかが分からない。そんなことを思いながら二人を見ていた。女の子の方はずっと「あの…」や「その…」を繰り返している。椿はそんな彼女を黙ってみているだけ。まるで女の子が長年片思いしている男の子に告白しようとしているのを絵に描いたような光景だ。俺はそろそろいたたまれなくなってきたので椿に小声で、
「何とかしろよ、てかなんか言え」
「だって、何言えばいいかわかんない」
「何でもいい、そろそろ寒い」
「はいはい」
 椿が少しだるそうに言うと顔を女の子の方に向けてこういった。
「寒いから早く言って」
 彼女はその言葉に反応して「すみません」と小さな声で言った。椿、いくら何でもひどすぎないか?
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