椿と灰 第一章

□5 冬−U
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 これはすべて終わった後、楠木修吾と楠木優奈から聞いたものだ。

 分かったときにはもう手遅れで
 
 あいつはあんなにヒントを出していたのに、
 またやってしまった。

 俺はいつも気づくのが遅い



 土曜日の2時15分前に椿は駅に着いていた。
「椿君、ごめんね。待った?」
「別に」
 優奈さんは椿を見るとカップルみたいなやりとりをした。
「こっち。お父さんもう家で待ってるから」
 椿は優奈さんについて歩いた。どういう設定にするかなど話しながら優奈さんの家までの道のりを歩いた。どうやら、大学で同じサークルになったと言うことらしい。そんなことを話していると20分くらい歩いたところに優奈さんの家があった、そこは金持ちの住んでいる町で優奈さんの家もそれなりに大きかった。
 優奈さんは玄関を開けてスリッパを用意する。家の中も綺麗ですごくオシャレであった。
「おじゃまします」
 椿が俺の部屋にはいるときには言わない言葉を口にして入った。
 廊下を歩いて、優奈さんはリビングのドアを開ける。そこには椿に背を向けてソファーに座っている一人の中年の男性が。その男性の頭は銀と黒が半分ずつくらいの色をしていた。彼は優奈さんのお父さんだ。
「お父さん、つれてきたよ」
 優奈さんはお父さんに言った。すると、お父さんはゆっくりと椿を見た。お父さんの顔はまるでオバケでも見たような顔になっていたという。
「私の彼氏の椿君。同じ大学なんだけど………ってお父さん聞いてる?」
「……いや何でもない。椿君だったか。君、下の名前は?」
 椿は素直に名前を言った。お父さんの顔はもっとひどいものになった。
「お父さん、さっきからどうしたの?」
 お父さんは「大丈夫」と言って笑顔を作った。
「まあ、立ち話もあれだ。とりあえず座ってくれ」
 椿と優奈さんはお父さんの前のソファーに座った。
「ワシは優奈の父の楠木修吾だ。椿君、会えてうれしいよ」
「こちらこそ。優奈さんのはお付き合いさせてもらってる椿です」
 椿は営業スマイルで言った。楠木修吾はやってられないと言うようにタバコに火をつけた。一瞬で部屋がタバコ臭くなる。
「椿君、優奈のどこが気に入ったんだい?」
「ちょっと、お父さん」
「それくらい、聞かせてくれよ」
 楠木修吾は笑いながら椿を伺う。椿は演技を始めた。
「そうですね。普段とても明るいですし、僕が何を言っても一緒に笑ってくれて、その笑顔がたまにすごく可愛いらしくて、癒してくれます」
「そうか………よく分かってるな」
 もちろん。椿の答えに一つも事実はない。楠木修吾はタバコをもう一本取り出し優奈さんに言った。
「優奈、タバコを買ってきてくれ」
「えー」
「ほら、それに男同士でも話したい。そう思うだろ、椿君」
「はい、楠木さんと話してみたいです」
 椿がそういって優奈さんを見る。優奈さんは渋々部屋から出て行った。楠木修吾はそれを確認すると椿にこういった。
「名字が変わって分からなかったよ」
「でも、顔は覚えてた………でしょ?」
 椿は口の端を三日月のように上げる。
「久しぶり……父さん。もう七年になるかな」
「気色の悪い呼び方をするな。お前はもう俺の息子じゃない」
「俺もあんたのことは父親だと思ってない」
「なら、何で来た?」
 楠木修吾は灰皿にタバコを押しつけ箱から一本タバコを取り出し火をつけた。手元は汗ばんでいる。椿はそんな楠木修吾の行動を見てから
「あんたに復讐しにきた」
 からかうようにそういった。
「バカらしい。だいたい何の復讐だ」
「老いぼれてもう忘れちゃった? だったら俺の顔を思い出したようにしてあげようか?」
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