椿と灰 第一章

□8 冬−春
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椿とのことがあってからずっと頭が変だ。宿題なんてやる気もおきず結局半分もできなかった。あれから、3週間ほどたった。大学も始まった。そういえば、今日が椿の退院の日だったことに気付く。すぐに俺には関係ないと思いこんで違うことをした。
 大学に行ったが椿の姿は全然見なかった。もしかしたら、まだ腹の調子が良くないのかもしれない。すると、優奈さんがいた、優奈さんもこっちに気付いたようで俺のほうに近づいた。
「椿さん大丈夫ですか?」
「さぁ、まぁ………大丈夫でしょう」
「本当にすみません、ごめんなさい」
「椿は全然気にしてませんよ。毎回花束どうも」
「いえ、花束だけですみません。本当は椿さんにも謝らないといけないんだけど……怖くて」
「あなたが謝ることじゃありませんよ」
「でも、本当にごめんなさい」
 俺が何を言っても優奈さんは謝った。まるで自分がやったみたいに。
「優奈さんがやったんじゃないんだから」
「いいえ、私のせいです。私がもっと気をつけていたら」
「あなたのせいではありません」
「私のせいなんです!」
「何でそこまで責めるんですか?」
 自分を責める必要なんかないのに優奈さんは異常なほどに自分を…。
「昔、お母さんからお父さんにはもともと私くらいの子供がいたって、でも私たちを選んだって、私気付かすに……」
 そんなことが理由で、と思った。そのくらいじゃあ理由にならない。
「優奈さんのせいじゃないですよ。お父さんのことも……椿のことも…」
「あなたに何がわかるんですか!」
 そこで俺はまるで自分を見てるみたいだった。椿の気持ちが少し分かった気がした。2週間前のやりとりと同じじゃないか。いや、立場が変わった。
「分かりますよ。俺も椿の怪我のことでずっと自分を責めていたから」
 今はもう違うけど。俺は笑った。
「灰田さん………?」
「俺も前まで優奈さんと同じような感じだったんです。でも今は分かりました。あなたも俺も……悪くないんです」
 優奈さんは何も言えずにいる。自問自答でもしているのだろうか。
「まったく何も悪くないと言ったら少し違いますけど、やったのは優奈さんではないでしょう? 自分ばかり責めるのはやめにしませんか?」
「…………………………はい」
「その代わり、お父さんとよく話し合ってください」
 優奈さんは納得してくれてうなずいた。俺はやることが増えてしまった。

 昼休みに朝野を探した。彼女はベンチでパンを食べていた。
「朝野」
 俺は呼びかけた。朝野は黙ってこっちを向いた。
「ここ、3週間椿を見なかったか?」
 朝野は静かに庭の方の窓に指さした。俺はその指を目で追う。指は止まって俺の視線求まった。驚くしかなかった。
「1月〜4月にかけて咲くのよ。綺麗でしょ」
 朝野と前に話した中庭にはそのとき咲いてなかった、椿の花が綺麗に咲いていた。それは綺麗の一言で片づけられるモノではなかった。朝野の絵が生きている。
「彼も生きてるんじゃない? 意外と近くで」
 朝野はそれから何も言わなくなってしまった。俺も何も言えない。

 マンションに帰るとき、駐車場に椿の車はなかった。俺は管理人に椿のことについて尋ねると、
「あー、椿さんのところねー。そういえば、2週間くらい見てないわね。新聞溜まってるみたいだし、どこいったのかしら」
「ありがとうございます」
 俺は部屋にはいるともしかしてと思い、あるところに電話をかけた。
「灰田と言います。佐中秋子さんいますか?」
『ちょっと待ってください』
 俺はさいごの切り札に佐中さんを呼ぶことにした。
『はい、私です』
「灰田ですが」
『どうしました? お兄ちゃん死にました?』
「死んでたらとっくに連絡しています」
『じゃあ、なんですか?』
「椿知りませんか?」
 すると、電話越しに笑い声が聞こえた。
『喧嘩でもしたんですか?』
「喧嘩するほど仲良くありません」
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