紅色の川

□プロローグ
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『今回もやられた!?
警察手も出せず、怪盗ピオニーに3千万円あっさり取られる!!!』
 新聞にあるその見出しを見て俺はにやりと笑う。その見出しの横には大きな写真。そこには、唖然としている警察が数名写っている。
「あははははっ!」
 俺はその新聞を投げ飛ばし、腹を抱えて笑う。
「警察もバカだなぁ」
 俺の笑いはしばらく止まらなかった。
 そう今、世間を賑わしている怪盗ピオニーは俺のことである。
 本名は紅川晃太。バリバリの日本人である。そして、まだ22才という若さでこの才能を発揮し存分に使っている。
「晃太…ご飯よ」
 いきなりドアの向こうから女性の声。俺は、その女性をよく知っている。
「ああ、今行くよ……母さん」
 彼女は俺の実の母親。
 俺は、立ち上がりドアに手をかけて開ける。母親はもういない。
 
 目の前には親父、隣に母親。会話はなく食器の音がうるさいくらいだ。
「晃太…」
 ふいに母親が手を止めて俺に話しかけた。
「何?」
 俺は食べ続けながら少し不機嫌気味に返事をする。
「貴方もう、22でしょ?そろそろ働いたら?」
 俺の手もそこで止まる。
「最近なんて…黙って夜に家から出て行くじゃない……何しに行ってるのよ?ねぇ?母さん怒らないから」
 盗みに行ってるんだよ
 俺はさっきよりも低い声で
「ごちそうさま」
 と言い、茶碗と箸をテーブルに強くたたきつける。席を立ち、すたすたと自分の部屋に戻る。後ろからは母親の止める声。そして、その母親を止める父親の声が少しだけ聞こえた。
 俺は自分の部屋にはいるとふーっと溜息をつく。
 俺は世間様から見れば中卒のニートである。今は父親の収入を頼りに食べていけている。
 中学の頃から勉強だけはできた。だから、調子に乗って県内で一番高い高校に入った。すると、どうだ。不思議なことに俺は校内で最下位を争うまで勉強ができなくなってしまった。2年の1学期の途中から学校に行かなくなり、ついには退学。見事、中卒という肩書きをもらうことができた。他の学校に転入と言うこともできたが、学校に行かないことになれてしまった俺は行く気もせず親に迷惑をかけまくった。大学に行こうにも高校を卒業しないといけないし、仕事も中卒じゃ話にならないので就職活動すらしていない。
 最近では家でパソコンしてるか、寝てるか、人の物盗みに行ってる。そんな毎日。いや、盗難はそんな頻繁にはやっていないが。
 俺は昨日盗んだ3千万を鞄に入れて外に出た。
 
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