紅色の川

□第九話 二人の男女
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「山都先輩は


男の人だけれど
女の人でもあるんです」



俺の話を聞き終わった
牡丹さんは事態を飲み込めない様子で

目を見開いたまま色々考えていた。


そうなることを予想して
俺は話した。



「あの、これは別に

貴方を困らせようとしたんじゃなくて・・・・


事実を知って欲しくて・・・・・・」



言い訳のように俺は牡丹さんの表情を伺いながらそう言った。



牡丹さんは立ち上がった



「あの・・・・・・・」


「今は放っておいてください

一人で考えたいんです」


「でも・・・・・」


俺が言いかけて
牡丹さんは走り出した。


人混みに紛れて
彼女は見えなくなった。



はぁ


俺は静かに溜息をついた。


そして、しばらくそこで座りながら考えていた


正しいことをした気分じゃない

でも、なんとくなく
話さないといけない気がした。



それは
牡丹さんに山都先輩を諦めて欲しいとかそういうんじゃなくて

真実に向き合って欲しかった



彼女はまだ俺より若いし
まだまだ全然知らないことが多い


だから
教えないといけないと思った。


恋愛はそんなに甘いものじゃない


誰だって
苦しい思いをするんだ

ということを



それは
俺が17の時に先輩に教えてもらったのと同じだ

先輩は無意識でやっていたけど



先輩が男の人になった

そのときの衝撃


嫌だったけど


勉強にはなったと思う



その教えを俺は牡丹さんに教えた。





正しいことをしたなんて
思ってない



ただ、現実と向き合って欲しかった。



小説のような恋はしちゃだめなんだと







ポツ

ポツポツ





噴水の水が

円上の波を描く



水玉は俺の服にも落ちた。


次に頭に落ちた。



冷たい





雨が降ってきた。






「牡丹さん…

大丈夫かな」



牡丹さんは傘なんてもっていない


俺は立ち上がり
牡丹さんが消えた
人混みに入る
走って




雨に濡れたら大変だ。



まるで口実のように
強く自分の胸に言い聞かせた。








人は走っている

俺を避けたり避けなかったり


俺は牡丹さんを追いかける




雨の勢いは止まらない


うたれる男



俺は今




恋に必死だった





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