紅色の川

□第一話 怪盗ピオニーのお仕事
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今日は日曜日

予定は珍しくある

山都先輩と遊ぶ約束をした。


昨日の疲れはまだ少しあるが
先輩との約束を断るほどでは全然無いので俺は午後1時少し前に北原駅前にいた。先輩は1時ちょうどに来た。

「昨日は大活躍だったみたいだね」
「はぁ、おかげさまで」

 俺は山都先輩と肩を並べて歩き出す。どこに行くかは決めていないのでただ、適当にある道を歩くだけ。

「いくらくらい盗ったの?」
「今回は少ないですね……三百万ほどですかね…」

昨日の宝石はさっさとぼろい質屋に売った。

「三百万が少ないんだ。そんなこと言ってられるのも今の内だ」
「そうですね………」
「私にも少し分けてくれよ」
「駄目ですよ、それは」

 冗談めかしに言った先輩に俺も冗談半分で笑いながら言った。

「募金活動にご協力下さい!」
「恵まれない子供達に1円でもいいので!」

 歩いているとそんな声が俺の耳に入った。
 歩道の橋で大きな声を出しているのは募金活動をしているボランティアの学生だった。年は俺とほとんど変わらないだろう。手には募金箱。
 歩道にはそれなりの人。
 だが、ほとんどの人は学生達の声を無視。見て見ぬふり。急いでると見せかけるように早足。時折、小銭を箱の中に落とす者。

 俺は鞄の中からしわしわの茶封筒を持って一人の女の子の前に行った。

「これ、少ないけど」
「ありがとうございます!」

 彼女は笑顔を俺に向けた。
 けど俺には見えない。
 俺は人の顔を見るのが苦手だ。

 茶封筒に手を突っ込むと中に入っている福沢諭吉を百枚取り出しソレを募金箱に入れた。

「たくさんの子供をたすけてあげてくださいね」
「はい…」

 女の子はびっくり
 そりゃそうだ。
 いきなり一人の男が大金を募金に使ってしまうのだ。
 彼女だけではない
 周囲にいた人間全てが俺の方を丸い目で見ていた。
 視線に耐えられず、俺は早歩きでその場を立ち去った。

 山都先輩は駆け足で俺あとを追ってきた。

「今の紅川君格好良かったよ」
「お世辞はやめて下さい」

 俺は顔を赤くしながら下を向く。

「お世辞なんかじゃない。本当にかっこいいと思った」
「やっぱり人間は苦手です」
「あんなことするから」
「だって……」

 はは、と先輩の笑い声。
 俺は何も言わず
 先輩も笑っていた顔から真剣な表情になった。

「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ」

 俺は顔を上げて、でも先輩の顔は見ずまっすぐ前を見た。

「なんで、盗んだお金を自分のために使わないの?」

 俺はしばらく考えた。
 うまく言葉では表現しにくいが一生懸命言葉を紡ぐ。

「ゴミをゴミ箱に入れたくないんです」
「ゴミ?」
「俺は中卒のニートで世間から見れば社会のゴミかもしれません。他の人たちも……たとえば、不良や犯罪者、貧しい人、ホームレスの人たちなどは普通の人から見れば、邪魔な者、消えて欲しい者、居なくなって欲しい存在かもしれません」

 俺は真剣に伝える

「でも、それはどうしてですか?
少し普通じゃないからですか?
普通の人より下だからですか?
下ってなんですか?
普通の基準ってなんですか?
普通ってそもそもなんですか?

少し自分たちより普通じゃないからって死んでも良いんですか?

ゴミ箱に捨てても良いんですか?


さっきの募金だってそうです
あの大きな声は聞こえたはずです
なのにだいたいの人は無視

つまり、貧しい子供達を助ける気がまったくない。
他人だから
知らない子だから
関係ないから

一人も助からなくても良い

まだ、使えるのにゴミ箱にぽいと同じです。

でも、普通の人は
自分より上の人間にはぺこぺこ頭を下げて従う

プライドが存在しない

なんで?


家族のため?
自分のため?
お金のため?
普通以下になりたくないため?

そして、普通以上
金持ちは

そういう奴らを従えさせて

いい気でいる

だから嫌いだ

だから働きたくない
働いたらこうなってしまいそうで

なら、俺は悪人になってもいい
悪人になって
ゴミを再利用させる
もう一回使えるようします

まぁ、俺みたいなゴミを扱ってくれる会社なんてないと思いますけど

あと、これはあくまで俺の考えなので」


 伝え終わった
 伝わっただろうか?

 先輩は深く息を吸う


「やっぱり、紅川君はかっこいいな」

 意外な言葉
 目を見開く

「君は社会に出た方が成長すると思うけどなぁ」
「やです」
「はは…そうだろうね」

 山都先輩はいつもの先輩のように笑った。

先輩の方が俺はかっこいいと思う
 
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